不動産投資に関心がある方なら「積算価格」という言葉を耳にしたことはあるでしょう。本やセミナーでも当たり前のように「積算」という略語が使われていたり、不動産会社の営業マンや銀行の融資担当者との会話のなかに出てくることもあるはずです。
その頻度の多さから、「積算価格が不動産の重要な指標である」ことに気づいている人は多いと思います。
そこで、この記事では
- ・積算価格とは何か
- ・積算価格の計算方法
- ・銀行融資の際の積算価格
など、積算価格の意味を知るだけでなく、実際に算出して使う方法までを順を追って説明します。
積算価格への理解を深めることで、投資物件を見つけた際に、不動産価格が適正か否かの判断ができるようになります。つまり、対象物件の購入によって高値掴みのリスクを減らすとともに、お買い得物件を選べる視点が身につくということです。
中上級者の方にとっては「そんなの知ってるよ」という内容もあるかもしれませんが、自分の知識が正しく身についているのかを確かめるという意味でも、“おさらい”として読んでいただければと思います。
1. 積算価格についての基本的知識
1-1. 積算価格とは
1-1-1. 積算価格
積算価格は、「不動産価格を“土地”と“建物”に分け、それらを合わせた評価額」のことです。言い換えると、物件を建て直したときに土地と建物がいくら程度になるのかということを算出した数字になります。
1-1-2. 収益価格
収益価格は、対象不動産が将来どの程度の収益を生めるかということを評価した金額です。収益不動産かどうかを判断するものになります。収益価格を求めるための計算方法(収益還元法)は、「直接還元法」と「DCF法」に分かれます。
直接還元法とは、「1年間における純収益÷還元利回り」で不動産価格を求めることができます。DCF法よりもシンプルな計算式といえます。
一方、DCF法(Discounted Cash Flow)は、対象不動産の保有期間中に得られる純利益と売却時の予想価格を現在の価格から割引いた合計値が不動産価格になるというものです。
収益還元法についてはこちらの記事で詳しく解説しているので、ぜひ合わせてお読みください。
1-1-3. 積算価格と収益価格の違い
積算価格は、物件を再度建て直すときの費用(再調達原価)を求めるという意味で「実需」の面を考慮した価格といえます。
一方、収益価格は、家賃収入を基準とした収益力を算出した価格であり、主に不動産投資をする場合に利用されます。
よく「積算価格は銀行などの金融機関が融資を実行するかどうかの判断となる指標」といわれます。これ自体は間違っておらず、実際に一時期のスルガ銀行のように積算価格を重視して積極的に融資をする銀行もありました。
ただ、現実には積算価格だけでなく収益価格も重視している銀行は存在します。どちらに比重を置くかは銀行によって異なりますが、「積算価格だけ高ければ、融資はしてもらえる」わけではないので注意が必要です。評価基準は銀行によって異なるので、どういった物件が融資を受けやすいかどうかは情報を仕入れることが大事になります。
1-2. 積算価格がどうなっていると良いのか
上の話につながりますが、一般に「融資額の評価の際には、利回りよりも積算価格が重視される」といわれています。
しかし、立地条件などが同じの物件を比べたとき、積算価格が高い方がコストの負担がより大きいと判断されます。
なぜなら、立地条件が同じで積算価格に差が生まれるのだとしたら、それは「建物」の値段、建築費が高いということになるということです。言い換えれば、建物の価格が高い物件は積算価格も高いということです。
建物価格が高くなると、その分固定資産税や都市計画税なども比例して高くなります。また、物件の修繕費も建物価格に比例して上がります。つまり、ランニングコストがかさみ、実質利回りが低下する恐れがあるということです。
このことから、「積算価格は高ければ高いほどいい」と考えてしまうと、融資は受けられたとしても賃貸経営が成り立たなくなる危険があります。 投資用不動産の購入を考える場合はいくら積算価格が高かったとしても、実質利回りを計算して、きちんと経営ができるのかを判断する必要があります。
1-3. 積算価格の計算方法
ここでは、積算価格の算出方法の解説をしてきます。
1-3-1. 計算式
積算価格の計算式は、以下のとおりです。
積算価格=土地の現在価格+建物の現在価格+修正額
さらに細かく見ていくと、
- ・土地の現在価格=土地の価格×土地面積
- ・建物の現在価格=建築単価(再調達単価)× 建物面積 ×(残存年数÷耐用年数)
という計算式で算出されます。
それぞれの細かい項目については、下の「1-3-2. 計算に必要な項目の解説」で紹介します。
なお修正額とは、土地の形状や立地などの特性によって増額もしくは減額される部分を指します。
例えば、
- ・「角地」の場合……利用価値が高いため、評価額が1割増しになる
- ・「2面道路に接道」する場合……価格が高いほうの道路を評価額として使う
- ・「旗竿地」の場合……土地の利用価値が低いため、評価額が3割減になる
となります。
1-3-2. 計算に必要な項目の解説
まずは、土地の現在価格の計算式に出てくる「土地の価格」について見ていきましょう。 「土地の価格」は、以下の3つを利用して評価されます。
・路線価
道路に面する宅地 1㎡あたりの評価額のこと。相続税や贈与税を算定するときの基準として適用されます。毎年7月1日に発表されます。路線価図から確認することが出来ます。
なお、路線化には2種類存在し、
- ・国税庁の「相続税評価額路線価」だと、実勢価格の70~80%となります。
- ・市町村の「固定資産税路線価」だと、実勢価格の60~70%となっています。
・公示価格
2名以上の不動産鑑定士が調査を行って決める価格。土地の価格の評価方法のなかでは、もっとも正確といわれています。毎年1月1日に国土交通省から発表されます。実勢価格の90%です。
・基準価格
公示価格と基本同じで、異なるのは7月1日時点での土地の価格ということです。
なお、これら3つに関しては、資産評価システム研究センターが運営している「全国地価マップ」で調べることができます。
続いて、建物の価格です。
「建物の現在価格=建築単価(再調達単価)× 建物面積 ×(残存年数÷耐用年数)」
という計算式内にある項目を見ていきましょう。 「再調達価格」とは、建物を新たに建て直したときの価格です(この計算は「原価法」と呼ばれています)。
建物構造によって、新築時の単価は以下のように決められています。
建物の構造 | 新築時の単価 |
---|---|
鉄筋コンクリート(RC) | 20万円/㎡ |
重量鉄骨 | 18万円/㎡ |
木造 | 15万円/㎡ |
軽量鉄骨 | 15万円/㎡ |
また、「耐用年数」とは、建物の構造ごとに決められた法定耐用年数を指します。
建物の構造 | 法定耐用年数 |
---|---|
鉄筋コンクリート(RC) | 47年 |
重量鉄骨 | 34年 |
木造 | 22年 |
- 例えば、築11年の木造物件の場合、「残耐用年数÷耐用年数」は「(22—11)÷22=50%」となります。
1-3-3. 実際の計算例
では、実際に具体例を出して計算してみましょう。
- ・場所 : 東京都中央区銀座5丁目
- ・面積 : 50坪(≒165m²)
- ・路線価: 3,200万円/m²
- ・建物の構造:木造
- ・建築単価: 40万円/坪
- ・延床面積 : 110坪
- ・法定耐用年数 : 22年
- ・築年数 : 10年
このような投資対象物件があったとして、積算価格はいくらになるでしょうか? まずは土地の現在価格から計算していきましょう。
土地の現在価格は、「土地の価格×土地面積」という計算式でしたね。
ここでは、土地の価格(路線価)が3,200万円、土地面積が165m²なので、
3,200万円 × 165m² = 52億8,000万円
これが土地の現在価格になります。
続いて、建物の現在価格です。
計算式は、
建物の現在価格=建築単価(再調達単価)× 建物面積 ×(残存年数÷耐用年数)
でしたね。
ここでは、建物単価が40万円、建物面積が110坪、残存年数が12年、耐用年数が22年なので、
40万円 × 110坪 × { ( 22年 − 10年 ) ÷ 22年 } = 2,400万円
これが建物の現在価格になります。
※なお、ここでは土地の形状などで修正額が発生する可能性を除いています。
したがって、この2つの価格を足すと……
52億8,000万円 + 2,400万円 = 53億400万円
この金額が、この物件の積算価格になります。
2. 銀行が考える積算価格とは
2-1. 銀行と積算価格
銀行は融資をするとき、借り手の所有物件や購入する物件を担保に入れます。そのとき、担保となる物件に価値があるかどうかを判断します。担保評価と言われるものです。その指標となるのが積算価格です。
シンプルに言えば、積算価格が高いほど融資額が多くなり、積算価格が低いほど融資額が少なくなる傾向があります。
したがって、不動産投資を行う人は購入しようとする物件の積算価格がいくらなのかを把握しておいたほうが良いといえます。
2-2.ローンが利用できない? 積算価格の重要性
物件価格ばかりに目が行き、積算価格を重視しないでいると、融資が組めない可能性もあります。 ただ、積算価格が融資を受けるうえで重要であることは間違いないのですが、「積算価格が高ければいい」と安易に考えるのは危険です。
特に物件価格を積算価格が上回る場合は要注意です。この場合、郊外、駅から離れているなど需要の低い物件である可能性が高いからです。都心の物件なら積算価格が物件価格を上回ることはまずないといえます。
とはいえ、積算価格が物件価格を上回っていたら100%危険とも言い切れません。売主が相続で売り急いでいるなどのケースもあります。
3. 不動産投資を成功に導く積算価格の考え方
3-1. 積算価格を活用できると何がいいのか?
「銀行は積算価格を融資の指標にしている」と前に書きましました。これはつまり、積算価格を正しく把握し、不動産投資ローンや融資を活用できれば、加速度的に規模拡大ができるということです。
融資限度額は、積算価格の7割程度が目安といわれています。 ということは、物件価格が1億円の物件で積算価格が9000万円であれば、6300万円の融資を受けられます。
一方、同じ物件価格が1億円の物件でも、積算価格が5000万円だったら3500万円までしか融資を受けられません。 このように、物件価格と積算価格の差が小さければ小さいほど、融資比率が大きくなり、自己資金を出さずに済みます。
自己資金をストックできることは、次の物件を買い増すときにも役立ちますし、所有物件に何らかの緊急トラブルが発生したときも対応できるという意味で非常に重要です。
3-2. 高すぎる積算価格
「積算価格が高ければいいわけではない」と前に書きましたが、ほかにも注意点があります。
それは「積算価格が高い物件は固定資産税も高い」ということです。 固定資産税が高いということは、不動産取得税、登録免許税、固定資産税・都市計画税が高いということと同じ意味です。つまり、諸経費も高くなるということです。
したがって、積算価格が高い物件を所有することは、賃貸経営上、必ずしも望ましいとはいえないのです。
もちろん、諸経費を上回るほどの収益力があればいいのですが、「とりあえず積算価格が高いから、融資もしてもらえるしいいか」と考えてしまうと、後から経営が逼迫する恐れがあるので注意してください。
3-3. 結局、積算価格とは
積算価格の最大のメリットは、何といっても「長期間、多額の融資を受けられる」ことに他なりません。これは次の買い手が融資を組めるという意味で、出口を見据えやすいということでもあります。
したがって、フルローン、オーバーローンなどを使ってスピーディな規模拡大を狙う人は、積算価格が高い物件を買うのは正しい戦略といえるでしょう(ただし、銀行の融資姿勢は時期によって変動しますし、評価基準も銀行によって変わるので注意が必要です)
しかし、現金をしっかり出して安定的に賃貸経営をしていく人には、積算価格ではなく収益性を重視するべきです。
いずれにせよ、「積算価格が高い=素晴らしい」「積算価格が低い=ダメ」といった安易な考え方をするのではなく、ご自身の求める投資スタイルに合った選択をすることが大切です。
3-4. 積算価格シミュレーションツール
積算価格の計算方法は本記事でも紹介しましたが、面倒という方はシミュレーションツールがあるので紹介します。どちらも使いやすいものになっているので参考にしてみてください。
「不動産投資premium」積算価格計算シミュレーション
「イエキット」積算価格の算出シミュレーションツール
4.まとめ
- 1. 積算価格とは、「不動産価格を“土地”と“建物”に分け、それらを合わせた評価額」のこと。銀行が融資を実行するか否かの判断材料となる指標のため、物件選びの際は積算価格を求めておくべきでしょう。
- 2. 積算価格の計算式は、「積算価格=土地の現在価格+建物の現在価格+修正額」です。どのように計算しているかを知っておくことは必要知識といえますが、実際に計算が面倒な場合はシミュレーションツールを使うのも一手です。
- 3. 積算価格が高ければ高いほど、長期かつ多額の融資を受けられる可能性が高まります。また、融資が受けやすいということで次の買い手が見つかりやすく、出口のリスクが低いというメリットもあります。
- 4. しかし、積算価格が高いことのデメリットもあります。物件価格よりも積算価格が高ければ、売買需要が低い物件である可能性が高まります。また、積算価格が高い物件は諸経費も高くなるので、実質利回りが低下してしまいます。
いかがでしたか。
不動産投資家のなかでは「積算価格が高いほうがいい」とよくいわれます。特に地方の中古物件(大規模なRC造マンション)を多額の融資をいくつも受けて規模拡大してきた一部の投資家は、積算価格を過剰に重視しているようにも見受けられます。
しかし、本記事で繰り返したように、積算価格が高いことにはメリットがある反面、デメリットもあります。それらをきちんと理解したうえで、物件選びをすることが大切です。