2018年のかぼちゃの馬車問題を皮切りに、不動産投資での失敗例に着目するニュースやネット記事が増えています。なかには、最大の失敗といえる「自己破産」を取り上げているものも少なくなくありません。
そんなニュースや記事を見聞きするうちに、
- 「不動産投資って危険なのかな」
- 「自分は大丈夫なのかな」
- 「家族や知り合いは大丈夫だろうか」
と不安を抱いてしまうのも無理ないでしょう。
この記事では、
- ・破産するとはどういうことか
- ・破産を防ぐためのポイント
- ・破産したらどうすればいか
について解説します。
この記事を読むことで、「実際にどういうケースで破産が起きているのか」「破産しないためには何に気をつければいいのか」ということがわかるようになります。
1. 不動産投資で破産するということ
1-1. 「破産」と「破綻」は異なる
まずは本記事のテーマである「破産」について、改めてその定義を確認してみましょう。
不動産投資における「破産」とは、「自己破産」を意味しています。自己破産とは、簡単にいえば「養育費や税金などを除き、すべての借金をゼロにする」ことです。裁判所に破産申立書を提出して免責許可をもらうことで、正式に自己破産が認められます。
自己破産ができるのは「支払不能」になった状態の人だけです。支払不能とは、所有している資産や得ている収入から鑑みて「これは完済できない」と判断されるレベルを指します。
自己破産のメリットとして、すべての債務の支払い義務が免除される、つまり「借金がチャラ」になります。しかし、ある程度の財産は残せることが挙げられます。
デメリットは、借り入れが5〜10年間できなくなり、官報に住所と名前が記載されます。そのほか、免責決定まで士業など一部就けない仕事があります。
一方、破産と似ている言葉に「破綻」がありますが、不動産投資における破綻は「マイナス状況で終わること」を意味しています。
例えば、
- ・空室が長期間埋められずにローン返済ができなくなる
- ・売却してもローン返済額が残ってしまう
などのケースです。自己破産するまではいかないものの、投資の結果がマイナス収支で終わってしまう場合が破綻になります。
1-2. 破産に向かう流れ
では、不動産投資における最悪の結果である「自己破産」には、どういう流れで引き起こるのでしょうか。 厳密にはさまざまなパターンがあるのですが、ここでは最も代表的なものを紹介します。
最初の段階として、所有している物件の空室が思うように埋まらず家賃収入が減ります。しかし、ローン返済は毎月発生します。空室が埋まらなくてもキャッシュフローが出ている状況ならまだいいのですが、諸々の経費よりも家賃収入が少ない場合、貯金から持ち出しになります。
このときも毎月1、2万円程度の持ち出しなら致命的な額ではないので、何とか持ちこたえられます。しかし、空室の数が多かったり、空室期間が長かったり、そもそも貯金がわずかしかないと、持ち出しで払い続けるのにも限界がやってきます。
こうしてローン返済が滞ると、任意売却もしくは競売によって物件を手放さざるを得なくなります。特に競売の段階になると、かなり安価に売られてしまうため、売却益は期待できません。
売却後、そのお金でローンの残債を支払うわけですが、それでも多額の残債がある場合、返済するのは難しいということになり、自己破産になります。
1-3. 不動産投資にも「黒字倒産」はある
自己破産と聞くと、「さぞかし赤字経営が続いていたんだろうな」と思ってしまいがちですが、実は帳簿上は黒字でも現金が不足して、税金や経費、ローン返済が滞り、破産するという「黒字倒産」は存在します。
「デッドクロス」という言葉をご存じでしょうか? これは、「減価償却額が、ローンの元金返済額を上回る状態」を指します。
減価償却費は、建物の構造によって耐用年数が決められており、その年数に応じて配分が行われます。木造なら22年、RC造なら47年というイメージです。 そして実際の支出は初年度に行っているため、現金支出のない帳簿上の費用になるのですが、必要経費として認められるため大きな節税効果が得られます。
しかし、例えば耐用年数切れの木造物件などを購入してしまうと、減価償却が早期に終わってしまいます。減価償却費を経費計上できなくなると、大幅な「黒字」になります。 黒字というと聞こえはいいのですが、実際にはその分「たくさんの税金を納めなくてはならない」ということです。
正確にいうと所得税の納税になるわけですが、この状況が続くと、帳簿上は黒字になっているのに税金が支払えなくて破綻するということがあり得るのです。
建物の減価償却については以下の記事で詳しく説明しています。
不動産投資に取り組んでいる方の関心を集めるトピックの一つに「減価償却」があります。 不動産投資でとりわけ重要な建物の減価償却を理解するには、減価償却の計算方法を知ることや、不動産所得の確定申告について勉強する必要があるでしょう。 この記事[…]
デッドクロスについては、以下の記事をお読みください。
不動産投資をそれなりに勉強している方なら「デッドクロス」という言葉を聞いたことがあると思います。しかし、概念がわかりづらいことから「なんとなく」理解している人も多いのではないでしょうか。もしくは「一度も聞いたことがない」という方もいるかもし[…]
1-4. 破産につながる理由
破産につながる理由は、空室による家賃収入の下落、デッドクロス以外にも存在します。
収益性の低い物件を買ってしまった
端的にいうと、実質利回りが低い物件ということです。 そもそもリスクに対して稼ぐ力がないわけですから、突発的な要因が生じれば一気に持ち出しのレベルが上がります。
「安い」という理由だけで築古物件を買ってしまった
たとえ表面利回りが高くても修繕費が高かったり、賃貸需要が少ないエリアだったりすると、想定していた稼働率を維持ができず、出費ばかり嵩むことになってしまいます。
割高に物件を購入
市場価格よりも割高に購入してしまうと、いざ売却したときも利益が出ず、債務が残ってしまうリスクがあります。
業者の言いなりになっている
自身で収支計画を立てず、業者の言われるままに購入してしまうと、実は見せられた数字や項目には意図的な過不足が含まれており、期待していた収支が成立しない恐れもあります。
高額な設備投資
必要以上に設備にお金をかけてしまうと、そこでキャッシュを大幅に使ってしまい、いざというときのリスクに耐えきれなくなってしまいます。 極端な例ですが、ワンルームに大理石のキッチンを導入しても、それによって家賃が何万円も上がるわけではありません。設備は上を見ればキリがないですし、あくまで投資である以上、投下したお金がどれだけの期間で回収できるかという視点を忘れてはいけません。
1-5. 実際にどのくらいの人が破産しているのか?
ここまで「破産」の危険性をお伝えしてきましたが、実際にどのくらいの人が不動産投資で破産しているのでしょうか。
結論からいうと、不動産投資で破産している人の数を調べた調査はありません。 そのため、正確なことはわからないのですが、「極めて低い」ということはいえるでしょう。これは私の意見だけではなく、さまざまなメディア、投資家も同じです。
例えば、新築ワンルームを買ってしまって毎月1、2万円の持ち出しが発生しているなど「破綻」しているケースは数え切れないほど多いと思います。 しかし、自己破産レベルまで追い込まれた人が多いかというと、これは相当少数派でしょう。
なぜなら、不動産投資では大半のリスクに対してダメージを軽減させる手立てが存在しますし、そもそも投資家自身がそれなりに資産を持っていたり、本業で稼ぐ力があったりするため、多少失敗しても破産まで追い込まれることは稀と考えられるからです。
2. 不動産投資で破産してしまったら
2-1. 不動産投資破産の事例
ここで私が以前聞いたことがある破産事例を紹介しましょう。
Aさんは製造業の上場企業に勤める46歳で、奥さんと子ども2人を抱えています。
あるとき、職場にかかってきた新築ワンルームマンションの営業電話を受けました。 ちょうど子どもの教育費で悩んでおり、資産形成に関心があるタイミングでした。 そのため、「一度会って説明したい」という営業マンからの誘いに応じました。
営業マンから勧められたのは3300万円の23区の駅近物件でした。新築で駅徒歩10分圏内、再開発が見込まれるエリアということ、さらには自己資金を持ち出すことなく買えるということで、Aさんもよく勉強しないまま物件を購入しました。
晴れて大家になったAさん。キャッシュフローが毎月4000円で出ており、少ないながらも「不労所得を得ている」という結果に満足していました。
最初の物件を購入して以降、さまざまな会社からワンルーム物件の営業電話がかかってくるようになりました。Aさんも違う会社の話を聞いてみたいと思い、1戸目とは異なる会社の営業マンから話を聞くことにしました。
そのとき言われたのは
- 「リスク分散のため、複数戸買ったほうがいい」
ということ。 「たしかにワンルームを一つ所有しているだけど、空室になったときは完全に持ち出しになってしまう」と納得したAさんは、新しいワンルーム業者から2戸目となる新築ワンルームを購入しました。
賃貸経営が崩れ始めたのは、1戸目を購入してから2年目のこと。 たまたま空室が重なり、リフォーム費用が20万円かかりました。 2カ月後には空室は埋まったものの、家賃は1万円以上下がることになり、かつ空室時の補填も合わせると、60万円以上の手持ち金が一瞬にしてなくなりました。
さらに2戸の空室が発生した同タイミングで、Aさんは2社目の業者の別の営業マンから話を聞いていました(以前対応した営業マンは退職したといことでした)。 彼が言うに、
- 「Aさんは与信ギリギリまで借りているので、これ以上ローンを引けない」という話でしたが、「特別な方法を使えば、3戸目は買える」
ということでした。 営業マンは信頼できる風貌だったため、Aさんは「お任せします」と伝えて、勧められた私鉄の駅徒歩6分の物件を3000万円で購入しました。
しかし契約当日、実は3000万円のうちアパートローンでの融資は7割弱で、残りは金利の高い無担保ローンで融資を受けることになっていたことをAさんは知りました。 銀行ローンと無担保ローンの返済額を合わせると、毎月5万円の赤字が発生する内容になっていたのです。 慌てて抗議したAさんでしたが、営業マンとは連絡が取れず、会社側も「ローンについては説明済みで、当社に責任はない」の一点張りでした。
1、2戸目の家賃減収、さらには3戸目の毎月5万円の赤字によって、Aさんの家計は火の車になりました。給料だけでは返済が厳しかったため、複数の消費者金融からお金を借りて何とかローン返済に充てるという生活が続きました。
しかし、このままでは生活が成り立たないと思ったAさんは売却を決意。 3戸合計9200万円で買っていて、どの物件もまだ新しかったため「悪くても8000万円くらいで売れるだろう」と思っていました。 ですが、売却査定を出した不動産会社からの回答はなんと「6000万円台」。
もともと高値で買っているため、どれだけ粘っても7000万円には届かないという返事でした。 その後も複数社に査定を出したものの、いずれも返答は同じ。このままでは消費者金融からの金利もあり、苦しみはずっと続く……そう思ったAさんは自己破産の申請をしました。
2-2. 破綻してしまったらどうすればいいの?
自己破産が最悪の結果だとしても、それまでのあいだにできることはあります。
まずは「売却」です。 せっかく買った収益物件を経営難で手放すはつらいと思いますが、売却したお金でローン残債を払えばキャッシュフローを改善できます。前述のAさんのように、よほど割高で購入していない限り、一度撤退するチャンスは作れるでしょう。
次に「他の金融機関からの追加借入」です。 ただし、所有物件には抵当権が設定されていることが大半のため、積極的に融資をしてくれる金融機関はほぼないといえます。専門家に依頼すれば、一縷の望みはある方法でしょう。
3. 不動産投資で破産を防ぐためにできること
ここまで破産のリスクをいろいろ解説してきましたが、破産しないためにはどうすればいいのでしょうか。
3-1.購入の段階で気をつける
前述したAさんのように、不動産会社や営業マンのことを信じ切るのは危険です。
相手はビジネスで収益物件を販売しており、利益を追求しています。
- 「購入後、オーナーがどうなると知ったことではない」
と思っている営業マンも残念ながら多数います。 自分の頭で考えて判断することは必要です。
3-2.シミュレーションを綿密に行う
前の項目の続きになりますが、営業マンが作った収支計画表に漏れがないのか、リスクは十分に考慮されているのか、ということをチェックしなければなりません。
3-3.良い物件を見極める
利回りが高いから、大学や工場が近くにあって賃貸需要があるから、といった一見良さそうな条件でも隠れたリスクが潜んでいる場合はあります。 また、そもそも割高でないかマーケット調査も行う必要があります。
3-4.良い管理会社を選ぶ
破綻の主な理由は「空室が埋まらない」ことによって引き起こります。 これは物件が原因ということもありますが、管理会社の能力不足という可能性もあります。
3-5.早い段階で見極める
ローン返済に困って多額の自己資金を持ち出すようになったり、挙げ句の果てに消費者金融までに手を出すようになったら手遅れになってしまうリスクが高まります。「このままではまずい」と思ったら、無理に耐えようとせず、迅速に専門家に相談しましょう。
まとめ
1. 不動産投資において「破産」と「破綻」は異なります。前者は「自己破産」、後者は「マイナス収支で持ち出し」を意味します。
2. 不動産投資にも黒字倒産は存在する。これはデッドクロス(減価償却額が、ローンの元金返済額を上回る状態)が原因である
3. 不動産投資で破産した人数に関しての調査結果はないが、破産レベルまで追い込まれた人は少ないのではと思われる
4. 破産を防ぐためには「購入の段階で気をつける」「シミュレーションを綿密に行う」「良い物件を見極める」「良い管理会社を選ぶ」「早い段階で見極める」などの方法がある
いかがでしたか。
不動産投資における破産について解説してきましたが、例えば「かぼちゃの馬車」によって破産をした人は、失敗を繰り返し続けた人であり、失敗を繰り返さなければ破産することは事前に防げるといえます。きちんとリスクを理解することが何より重要だといえるでしょう。