「かぼちゃの馬車事件」は2018年前半に多くのメディアに取り上げられたので、聞いたことがあるという方も多いのではないでしょうか?
「かぼちゃの馬車事件」では、「サブリース契約で35年の家賃保証」を謳っていたにも関わらず、オーナーへの賃料支払いがストップしてしまい、これにより多額の借金返済に窮するオーナーが続出しました。
このような「かぼちゃの馬車事件」の概要については既に知っている方もいると思いますが、これから不動産投資を始める方や、現役不動産投資家の方の中には、
・「『かぼちゃの馬車』とはどのようにして収入を得る物件だったのか?』
・「なぜ、『かぼちゃの馬車』に投資する人がたくさんいたのか?」
など事件について疑問を持たれている方や、
・「過去の事件から、不動産投資で注意すべき点を知っておきたい」
という方もいると思います。
そこで、この記事では、
- ・「かぼちゃの馬車事件」の概要
- ・「かぼちゃの馬車」の物件の特徴
- ・「かぼちゃの馬車」が投資家を惹きつけたポイント
- ・「かぼちゃの馬車」のビジネスモデルの問題点
- ・「スマートデイズ」と「スルガ銀行」とのつながり
について解説します。
この記事を読めば、「かぼちゃの馬車事件」が起きるまでの流れや、投資家を惹きつけたポイントを理解することができ、これから不動産投資を行っていくときに、同じような手口を見極めるための知識を身につけることができます。
また、「かぼちゃの馬車事件」の被害内容と、被害に遭ったオーナーの対応策については、以下の記事で詳しく紹介していますので、是非こちらも合わせてお読みいただければと思います。
2018年前半、不動産投資業界を一変させた「かぼちゃの馬車事件」。世間を賑わせた「かぼちゃの馬車」という言葉を耳にしたことがある方もいらっしゃるでしょう。 「かぼちゃの馬車」は、スマートデイズ(旧スマートライフ)社が不動産投資家向けに[…]
「かぼちゃの馬車事件」で関連する「サブリース契約」とはなにか?については、以下の記事でも詳しくご紹介しています。
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1.「かぼちゃの馬車事件」って?
1-1. 「かぼちゃの馬車」=女性限定のシェアハウス
かぼちゃの馬車は、スマートデイズ(旧スマートライフ)社が不動産投資家向けに売り出していた投資商品のブランド名です。
三井不動産の「パークマンション」、東京建物の「ブリリア」、野村不動産の「プラウド」などのマンションブランド名を聞いたことがあると思います。同じように、スマートデイズの「かぼちゃの馬車」というブランドで販売され、一部の投資家から人気を博していました。
「かぼちゃの馬車」の特徴は、女性限定のシェアハウスということです。今ではシェアハウスに対して「儲からない」「融資がおりない」「出口がない」などマイナスイメージを持つ方も多いと思います。
しかし後述するように、かぼちゃの馬車は、特殊なスキームでリスクを回避しているようにアピールしていたため、またスルガ銀行が積極的な融資をしていたため、ブランドの実力以上に人気が高まったといえます。
1-2. なぜ「事件」にまで発展したのか?
かぼちゃの馬車の人気は、セミナーや口コミで広まっていき、2016〜2017年にピークを迎えました。運営会社のスマートデイズの年間売上高は2014年7月期に8億5000万円だったのに対し、たった2年半後の2017年3月期には316億円に急伸。上場も視野に入れ、事業は大成功しているように思えました。
最終的にかぼちゃの馬車は、約700名の投資家に約800棟1万室が販売されていたほどです。
しかし2017年10月、オーナーに対して「毎月払うサブリース賃料の減額」が突然通知されました。同社は「サブリース契約で35年の家賃保証」を謳っていたため、それが減額されことは、当然オーナーにとっては死活問題です。
そして、2018年1月以降、オーナーへの賃料支払いがストップしました。これにより、多額の借金返済に窮するオーナーが続出するなど、「かぼちゃの馬車事件」として一気に社会問題化しました。
1-3. 運営会社「スマートデイズ」
スマートデイズは東京・銀座に本社を置く不動産会社で、「かぼちゃの馬車」以外にも、男性向けシェアハウス「ステップクラウド」のサブリース(不動産転貸)事業などを行っていました。
設立は2012年。かぼちゃの馬車事業を立ち上げたのは2014年5月のことです。増資を重ね拡大していったものの、2018年4月9日に経営破綻しています。当時の負債総額は60億3523万円です。
なお、2019年2月19日に行われた第1回債権者集会では、届出債権は1053億円にのぼることが明らかになりました。
2. 「かぼちゃの馬車」のビジネスモデル
2-1. かぼちゃの馬車の物件の特徴
かぼちゃの馬車は「女性限定のシェアハウス」です。
特徴的なのは、専有部の各部屋が非常に狭く、共有部にリビングがないこと。シェアハウスには入居者同士で食事や会話を楽しめるリビングがあるイメージがありますが、かぼちゃの馬車の場合、共有部にあるのはキッチン、洗濯機、トイレ、シャワールームという最低限の設備でした。
出典:https://www.realestate.gr.jp/?p=3481
各個室は4.2平米と狭く、ベッドと冷蔵庫、TV、収納を置いたらギリギリの広さです。
立地は23区内の好立地とされていますが、足立区や板橋区など山手線の外側がほとんどで、賃料は共益費込みで5〜7万円。実際に貸すことのできる相場賃料に比べて平均1~2万円ほど高い賃料設定がされていました。そのため新築時からほぼ入居がつかず、競争力のないエリアの入居率は著しく低いものでした。
メリットとして、他のシェアハウス同様、ベッドや冷蔵庫などの設備が既に置かれていること、インターネット代や光熱費が無料、敷金・礼金・仲介手数料がかからないという点は挙げられます。とはいえ、あまりに狭小で、かつ家賃は割高なため、純粋に物件の力だけで入居付けをするのは困難といえます。
2-2. かぼちゃの馬車のビジネスモデル
かぼちゃの馬車の謳い文句として「家賃35年保証」というサブリース賃料保証がありますが、この金額は実際に入居者が支払う家賃より高額でした。普通ではありえない話ですが、その理由をオーナーには、次のように話していました。
「入居者を職業斡旋して斡旋先の企業から報酬を受けたり、提携企業のサービスを利用した際のマージンを得ているため、入居者からの家賃が一切なくてもサブリース賃料の保証できる」
しかし実際には、職業斡旋などのマージンではなく、建築会社からのキックバックを原資にサブリースする、というビジネスモデルで売上を上げていました。
具体的なスキームはこうです。
まず、さまざまな謳い文句を駆使して顧客を見つけ、スルガ銀行から億単位の融資を引き出します。かぼちゃの馬車を建築するのは、スマートデイズの下請け会社です。スマートデイズは、相場より高い値段で建物と土地をオーナーに購入させ、下請けの建築会社からコンサル料という名目で50%のキックバック(紹介料)を受け取ります。
そして、このキックバックと入居者からの賃料が原資にして、オーナーに家賃を保証する、というのが実際のスキームでした。このスキームは新規でシェアハウスを売り続け、建て続けないと破綻してしまうため、まさに自転車操業的なビジネスモデルだったといえるでしょう。
3. かぼちゃの馬車事件の裏側
3-1. 投資家を惹きつけた5つのポイント
なぜ、かぼちゃの馬車はここまで人気を集めたのでしょうか。その理由は大きく5つ考えられます。
新築物件が用意される
かぼちゃの馬車を購入した多くは不動産投資初心者でした。投資であればもちろん中古も対象に入るわけですが、初心者であまり勉強をしていない人だとマイホーム同様、新築に対する信仰が強くなるのも事実です。
融資をしてくれる銀行を用意
かぼちゃの馬車は一棟1億円ほどなので、銀行融資を受けなければ借りられません。かぼちゃの馬車の場合、後述するようにスルガ銀行と組んでいたため、ある程度の属性の人であれば、自己資金を用意することなく融資を受けられていました。
35年の家賃保証(サブリース契約)
35年にわたって自分はなにも努力せずに毎月賃料収入が得られるという、これだけ聞けば夢のような話でした。このように長期の家賃保証をうたって営業する手法は、アパートメーカーでもよく使われています。
人材紹介会社とタッグを組んで入居者に対して就業支援
かぼちゃの馬車ならではの売り文句です。かぼちゃの馬車には「希望する入居者には、就業支援を行う」という独自の特徴がありました。かぼちゃの馬車は東京を中心に展開していたため、地方から上京を希望する女性にとって、住居と仕事の両方を確保でできる魅力があるとされていました。
実際、東京労働局から「有料職業紹介事業者」としての承認も受けており、人材紹介会社アデコと提携、希望者には就業支援を行っていました。若い女性の就業支援という社会貢献的な側面もあり、多くの投資家を惹きつけましたが、実際にはこの就業支援の仕組みはほとんど機能していませんでした。
女性タレントを起用したテレビCMによる信頼度の獲得
テレビCMを打って華やかに宣伝をしていました。かぼちゃの馬車の場合、女性タレントのベッキー氏を活用して、2017年前半にテレビCMを打っていました。
2017年2月2日、ベッキー氏は自身のブログで以下のように書いています。
女性専用のシェアハウス『かぼちゃの馬車』のCMに出させていただくことになりました。 これは60秒バージョンですが、youtubeなどには1分45秒バージョンもあるのでぜひみていただけたら… 都会で夢を叶えたいと思っている女性に、ぜひ“かぼちゃの馬車”さんのホームページ、みていただきたいです。
出典:ベッキーオフィシャルブログ
肝心のテレビCMですが、今でも1分バージョンがYouTubeで見ることができます。
見ていただければわかるとおり、「新築シェアハウス」や「不動産投資」といった“お金”を連想させるものではなく、ゲームのCMのようなファンタジー感を演出しています。
テレビCMを打つということは、一般的に「信頼できる商品・サービス」だと思われがちです。それまで信用していなかった人でも、テレビCMを見て「ここまで大々的に宣伝しているのなら、安定した投資商品なんだろうな」と思った人は多いでしょう。
3-2. かぼちゃの馬車への融資は、なぜここまで拡大したのか
不動産投資への融資に積極的だった「スルガ銀行」
かぼちゃの馬車事件について理解するうえで、そもそも「なぜ、こんなに儲からないシェアハウスを買えた人が多かったのか」という点を見逃すわけにはいきません。
不動産を購入する場合、借り手の属性(年収、勤務先、資産状況など)をふまえて銀行の厳格な審査を通過しなければ融資を受けられません。そのため、銀行の審査が行き過ぎた融資の歯止めの役割を果たしているともいえます。
しかし、かぼちゃの馬車の場合、融資をしたのは静岡を基盤とする地銀である「スルガ銀行」です。より正確にいうと、スルガ銀行の横浜にある一部の支店を中心にしていました。
スルガ銀行は「不動産投資に積極的に融資をする銀行」として業界内では有名で、3.5%〜4.5%という高金利にもかかわらず、審査スピードが速く、審査も緩いとされていたため、提携する不動産会社も当時はたくさんありました。
そのスルガ銀行がなぜ、かぼちゃの馬車に融資を行うに至ったのかの詳細はわかっていません。 ただ、過大なノルマに追われたスルガ銀行の行員が、スマートデイズ社の提案に飛びついたという可能性はほぼ間違いないでしょう。
結果、スルガ銀行はかぼちゃの馬車700棟・1000億円以上の融資を行いました。そして実は、行内でもその状況に対して焦げ付く(返済不能になる)ことが予想されていたという報告もあります。詳しくは後述します。
かぼちゃの馬車破綻は予兆があった
かぼちゃの馬車事件が表面化したのは、2017年10月のオーナーに対する支払い家賃の減額ですが、実はその以前に予兆がありました。
2016年10月、金融庁は「不動産向け与信集中リスクが、金融機関の健全性に与える影響について検証する」として注意喚起をしました。さらに2017年3月には、日本銀行が「不動産関連貸出については、不動産業向けのみならず、不動産業以外の業種や個人事業主も含め、幅広くリスクの所在と管理体制を点検する 」として、警鐘をならしつつありました。
この当時はスルガ銀行だけでなく、さまざまな金融機関が収益不動産に対して積極的に融資をし過ぎていたので、金融庁と日銀がその状況に警告を与えたわけです。
特にスルガ銀行は群を抜いて不動産投資への融資をしていたので、そこからの融資がストップになれば、自動的に新規のかぼちゃの馬車が売れなくなり、スマートデイズの資金も枯渇するため、オーナーにお金が支払われないということになります。
スルガ銀行による不正融資は1兆円以上
そして何より問題だったのが、単にスルガ銀行が積極的にアパートローンを融資していたのではなく、不正が数え切れないほど行われているということでした。
2018年8月に第三者委員会が調べた結果として、スルガ銀行の不正融資の総額は1兆円以上になるという発表がありました。
不正融資の具体的な内容は、同月日経新聞が以下のように報道しています(太字は本記事の執筆者による)
不適切な手法の一つが二重の売買契約書だ。行内ルールでは融資条件を物件価格の90%としている。販売業者が借り入れ希望者と結ぶ契約書には実際の物件価格を表記するが、販売業者がスルガ銀に出す契約書の物件価格は実際より高くする。それを行員が見逃すことで全額を融資していた。
中古のアパートやマンションでも、入居率や家賃収入を記載した書類が偽造されている事例が見つかった。空室率が高く、半ば不良化している物件でも、稼働率の高い優良な物件に見せる手口として使われていた。第三者委関係者によれば、借り入れ希望者の年収や預貯金残高を水増ししていた例を含め、手続きに何らかの不適切な行為が入り込んでいるのは不動産融資の過半に達しているという。
このように、スルガ銀行の融資体制がずさん極まりないものだったのです。
4.まとめ
- 1. かぼちゃの馬車とは、スマートデイズが販売していた女性向けシェアハウスのブランド名。長期の家賃保証、入居者に対する就職斡旋、テレビCMなどを武器に売上規模を拡大し、2018年4月の経営破綻時には、約700名の投資家に約800棟1万室販売していたことがわかった。
- 2. スマートデイズが破綻したきっかけは、金融庁・日銀による過剰なアパートローンへの警鐘。特に不動産投資に積極的だったスルガ銀行が融資を絞った結果、かぼちゃの馬車のビジネスモデルが回らなくなった。
- 3. かぼちゃの馬車のスキームは、下請けの建築会社からのキックバックにかなり依存しており、新規建築ができないと破綻してしまうという自転車操業モデルだった。
- 4. かぼちゃの馬車事件をきっかけに、スルガ銀行の不正融資も社会問題化した。書類の偽造、 借り入れ希望者の預貯金残高の水増しなどの不正な行為が日常的に行われていることが判明し、その影響は今でも続いている。
いかがでしたか。かぼちゃの馬車事件は、不動産投資業界の歴史を変えたといっても過言ではない一大ニュースでした。この事件の真相を知ることは、業界内のブラックボックスや投資する上の注意点を把握するうえでも非常に重要です。