不動産投資について少しでも知識がある人なら「減価償却」という言葉を見聞きしたことがあると思います。とはいえ、漠然としたイメージを持っていても、いざ「減価償却とは何のことですか?」と聞かれると、すぐに答えが出ない人も多いのではないでしょうか。
また、「減価償却と節税はどんな関係があるの?」「減価償却はどうやって計算するの?」「減価償却で押さえておくべきポイントは?」などの疑問を持つ方もたくさんいらっしゃるはずです。
そこでこの記事では、
- ・減価償却とは?
- ・減価償却費の計上が節税になる理由
- ・減価償却費の計算が必要になるタイミングは?
- ・減価償却の計算方法
- ・法定耐用年数=建物の寿命ではない
についてを徹底解説します。この記事を読むことで、減価償却とは何か、またその計算方法や必要となるタイミング、注意などを理解できます。
「減価償却」は不動産投資を行う人にとっては絶対に必要となる知識です。ぜひ、まだ知識が曖昧だという人はこの機会に身につけていただければと思います。本記事が「不動産投資で安定収入を得たい!」という方のお役に立つことができれば幸いです。
1. 減価償却とは?
減価償却とは、不動産や車、パソコンなど高額な固定資産を購入した際、その購入代金を、購入した年に一度に経費とするのではなく、分割して少しずつ計上するルールのことをいいます。
たとえば、20万円のパソコンを購入した場合、「今年は20万円のパソコンを買ったので、そのお金は経費にします」ということはできません。「今年は5万円、来年も5万円、再来年も5万円……」というように、固定資産(とその状態)ごとに決められた「耐用年数」で割って経費とするのです。
ただし、固定資産であっても減価償却ができる資産は、以下のいずれにも当てはまる場合です。
- 業務で使用している資産
- 時間が経つにつれて劣化する資産
ここで勘の鋭い方なら気づかれたと思いますが、「土地」は劣化して価値が下がるわけではないので、減価償却できる資産には該当しません。一方、「建物」の価値は築年数を経るごとに低下していくと考えられているため、物件の構造に応じて定められた耐用年数から求める償却率をもとに計算します。
不動産の場合、減価償却できるのは「建物」部分であり、「土地」は対象外です。
これは非常に重要なので、ぜひ覚えておいてください。
2. 減価償却費の計上が節税になる理由
減価償却がどういう意味かわかったけど、何が重要なの?と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
その答えは簡単。減価償却費を活用することで節税につながるからです。
では、なぜ減価償却費を計上すると節税につながるのでしょうか?
減価償却費が他の経費と大きく違うのは、「実際の支出がない」ということです。
例えば、建物価格3000万円、土地2000万円の計5000万円の物件を購入したとします。このとき購入時には5000万円の支払いが発生しますが、償却期間が10年であれば毎年300万円(建物価格を10で割った数字)を減価償却費という名の「経費」として計上できます。
つまりこのケースの場合、2〜10年目まで「実際の支出がないのに毎年300万円が経費となる」ということです。
もし毎年400万円の家賃収入がある場合、減価償却費300万円を引いた不動産所得は合計100万円となります(単純化のため他の経費は考慮していません)。この100万円にかかる税金だけ支払えばよいのです。
さらに、もし家賃収入が100万円だった場合、減価償却費300万円を引くと200万円の赤字になります。この場合、不動産所得は(他の所得と損益通算できる)総合課税のため、例えば年収1000万円の給与所得者だったら200万円を引くことで、実質800万円の給与所得とみなされ、所得税率が33%から23%に下がるのです。
勤めている会社の給与収入(給与所得)と不動産投資から生じた損失を通算することで、結果的に税金を安く抑えられます。これが「損益通算」です。
このように減価償却費は、支出がない費用として毎年の利益を圧縮することで税金を抑え、さらに場合によっては損益通算で所得税率を下げられるため、結果として手元にキャッシュを残す効果があるのです。
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3. 減価償却費の計算が必要になるタイミングは?
減価償却費の計算が必要になるのは、主に以下の2つのタイミングです。
- 確定申告の時
不動産投資をして家賃収入を得ている場合、基本的に確定申告をしなければなりませんが、そのとき減価償却費は経費として計上できるため、算出する必要があります。 - 不動産を売却する場合
不動産を売却して利益が出ると「所得税・住民税」が課税されます。この計算をする際、建物の減価償却費は利益に加算しなければならないため、減価償却費を算出する必要があります。
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4. 減価償却の計算方法
減価償却費の計算方法には、定額法と定率法の2種類があります。
4-1. 定額法の計算方法
定額法は文字通り、毎年定額の金額を減価償却処理する方法です。
定額法の計算方法……取得価額×償却率
4-2. 定率法の計算方法
定率法は、残存価格を一定割合で減価償却処理する方法です。
定率法の計算方法……(取得価額-前年度までの償却費の総額)×償却率
4-3. 「定額法」と「定率法」、どちらを使うべき?
結論から申し上げると、建物、建物附属設備及び構築物については「定額法」になります。
※正確には、建物設備については、定額法と定率法の双方の適用が認められていましたが、2016年4月1日以降に取得した建物附属設備・構造物については定額法のみの適用になりました。
※2007年に実施された税制改正により、2007年3月31日以前に建物を取得した場合は、以下の計算式になります。
旧定額法:取得価額×90%×旧定額法の償却率
旧定率法:(建物の取得価額-前年度までの償却費の総額)×旧定率法の償却率
以下からは、税制改正前後の定額法を 前提に解説を進めます。
4-4.建物の取得費を把握する
前述のとおり、土地は価値が劣化しないものと考えられているため、不動産の減価償却の対象は建物だけとなります。そのため、不動産の減価償却を行う場合、建物と土地の取得費用を分け、建物のみの取得費用を算出する必要があります。
建物の取得費は、建物の購入代金や建築代金、購入時にかかった税金や仲介手数料なども含まれます。
建物の取得費用を知るためには、不動産を購入する際に交わされた売買契約書や譲渡対価証明書などを参考にしましょう。もしそれらの書類に記載がなかった場合は、購入する際に利用した不動産会社に問い合わせてみてください。
4-5.残存耐用年数を把握する
次に、法律で定められた計算方法に基づき、対象となる耐用年数を算出します。
耐用年数とは文字通り「物が使用に耐えられる年数」のこと。住宅用不動産の耐用年年数は以下のとおりです。
- ・鉄骨造(厚さ3ミリ以下)……19年
- ・木造……22年
- ・鉄骨造(厚さ3ミリ超4ミリ以下)……27年
- ・鉄骨造(厚さ超4ミリ超)……34年
- ・鉄筋コンクリート(RC)造……47年
なお、鉄骨造のうち、使われている鉄骨の厚みが6ミリ未満だと「軽量鉄骨造」、6ミリ以上だと「重量鉄骨造」と呼ばれます。
また、金融機関が不動産に融資する際は、耐用年数も審査対象の一つとして判断しています。
例えば、築10年の木造アパートに対して融資を受けようとする場合、金融機関は以下のように評価します。
法定耐用年数(22年) − 築年数(10年) = 残存耐用年数(12年)
今回の場合、あと12年は価値のある物件と評価されます。12年が経過したあとは、それぞれの金融機関で融資の可否、融資額、融資期間を決定します。
ただ一般的に、残存耐用年数を超えての長期融資を引き出すことは難しいとされています。
4-6.償却率を把握する
償却率の確認方法は、耐用年数をもとに国税庁が定める「減価償却資産の償却率表」を確認します。なお、不動産取得日が2007年3月31日以前なのか、2007年4月1日以降なのか、もしくは定率法か定額法なのかによって異なるので注意してください。
4-7.減価償却費の計算例
では実際に、例をもとに減価償却費を計算してみましょう。
- ・新築木造アパート
- ・建物価格 3000万円
- ・2020年5月購入
まず、残存耐用年数を算出します。新築木造なので22年となります。
次に、定額法(建物の取得価額×償却率)に当てはめて計算します。このケースの場合、建物価格の3000万円に、前述した国税庁の「減価償却資産の償却率表」から割り出した耐用年数22年の定額法の償却率である0.046を掛けます。
3000万円×0.046=138万円
つまり、138万円が建物減価償却費となります。
5. 法定耐用年数=建物の寿命ではない
不動産の減価償却の対象は建物だけというため、建物が古いと価値がないと誤解を招くかもしれません。しかし、実際は法定耐用年数=建物の寿命ではないことを理解しておきましょう。
5-1. 耐用年数が定められたのは昭和40年
法定耐用年数について前に「木造は22年、RC造は47年」などと紹介しましたが、これは「(木造でいえば)22年経ったら建物がボロボロになって耐えきれなくなる」という意味ではまったくありません。
都内であれば1970年代(築50年以上)のアパートを見かけることも珍しくないですし、それらの物件に住んでいる人も大勢います。建物が古くなっていることは事実でしょうが、今すぐ倒壊してしまうレベルではないはずです。
ですから、「耐用年数とは、あくまで法律で定められているものであり、物理的な見地から決めたものではない」ということを理解しておく必要があります。
「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」が公表されたのは、昭和40年(1965年)のこと。このときと現在を比べれば、建築資材や建築技術、修繕技術に圧倒的な差があることは誰でもわかることでしょう。また、耐震基準、防耐火基準も非常に厳しくなり、建物の強度や安全性も現在の物件のほうが格段に高くなっています。
5-2. 減価償却費の計算例
なお、こちらのサイト「ワクワクリノベーション『中古マンションの寿命は何年?』」によると、2011年に早稲田大学の教授が調査を行い、財務省が情報公開している資料をもとに分析したところ、1997年の調査データでも木造一戸建ての平均寿命は約44年となっているそうです。木造の法定耐用年数は22年なので、約2倍の寿命があることになります。
また、2005年に行った調査データでは木造一戸建ての平均寿命が約54年と10年も平均寿命が伸びています。これは前述のとおり、建築資材や建築技術、修繕技術などが関係していると思われます。
ちなみにRC造のマンションに関しては、1997年の調査データでの平均寿命は44年、2007年は約46年となっています。ほとんど法定耐用年数通りです。
この理由は、RC造のマンションが普及したのは「第一次マンションブーム」があった1963年以降であり、そもそもの歴史が浅いからです。
最近、老朽化マンションの建て替えに関するニュースが取り上げられることがありますが、まだ200件程度しかないので、大半は首都圏に偏っています。これは物理的な劣化というよりも、建て替えによる収益力アップが要因と考えられます。おそらく、すべてが建物の寿命を超えたから建て替えしたわけではない、ということです。いずれにせよ、マンションの寿命に関しては、現時点では判断できない、といえます。
6. まとめ
- 1. 減価償却とは、不動産や車、パソコンなど高額な固定資産を購入した際、その購入代金を、購入した年に一度に経費とするのではなく、分割して少しずつ計上するルールのこと
- 2 減価償却費の計算が必要になるタイミングは「確定申告」と「不動産売却時」
- 3. 減価償却費の計算方法には、定額法と定率法の2種類があるが、不動産は2007年以降に購入したものであれば「定額法」を使う
- 4. 耐用年数は減価償却費を計算するときだけでなく、金融機関から融資を受ける際にも必要となる知識である
- 5. 法定耐用年数が定められたのは昭和40年(1965年)のこと。当時とは比べものにならないほど現在のほうが資材、技術はアップデートされているので、実際の建物の寿命は法定耐用年数よりも長いものが多いといえる
いかがでしたか。減価償却は不動産投資だけでなく会社経営においても必須の知識です。減価償却費と税金の仕組みを理解し、減価償却費で課税される税金を上手くコントロールすることが大切です。
こちらの記事でも、建物の減価償却費の計上方法やその他確定申告で損をしないためのポイントをご紹介しています。併せてお読みください。
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