法人を設立し、個人ではなくその法人名義で物件を買うーー不動産投資の勉強をしている方なら「法人化」という言葉を聞いたことがあると思います。
とはいえ、「法人化ってどんな人がすべきなの?」「会社員でも法人はつくれるの?」「法人化のメリット・デメリットってなに?」「どうやって法人を設立するの?」といった疑問をお持ちの方は多いはずです。
普通に会社員として働いている人からすれば「法人化」は非常にハードルが高く、「一部の専業大家さんだけが行うもの」だと考えているかもしれません。
しかし、不動産投資の世界では法人化は珍しいことではなく、一般の会社員の方でも法人を設立して物件を購入している人は大勢います。法人化することのメリット・デメリットを理解したうえで法人を有効活用することは、特に規模拡大を考えているオーナーにとって非常に有効な戦略です。
そこでこの記事では、
- ・個人か法人化か? 法人化のメリット
- ・法人化のデメリットとは?
- ・法人化する場合のタイミングとは? 最初から法人化がよい?
- ・法人化するための方法
- ・法人化に関するよくあるQ&A
についてキャリア10年以上の不動産投資家であり、個人名義・法人名義どちらでも不動産購入をしている筆者が徹底解説します。
この記事を読むことで、法人化の基礎知識が身につくだけでなく、法人化を行うタイミング、その注意点などを知ることができます。さらによくあるQ&Aも紹介するので、これまで曖昧になっていた法人化の注意点やポイントについても理解を深めることができるでしょう。
本記事が「家賃収入を得て安定した生活を手に入れたい」という方のお役に立つことができれば幸いです。
こちらの記事でも不動産賃貸業を個人所有か法人化で迷っている方に、はじめての方でも安心の法人化する手順で気を付けるべき点を解説しています。併せてお読みください。
この記事を読んでいる方は、 ・実際に大家としてアパート経営をしていて「不動産賃貸業」と「大家」の違いが気になる ・ただの大家としてではなく「不動産賃貸業」として規模を広げていき安定した状態を作りたい ・不動産賃貸業のことが知[…]
1. 個人か法人化か? 法人化のメリット
法人化と聞くと「一部の資産家や大規模な投資家だけの話だろう」と思われるかもしれませんが、これから不動産投資を始める初心者でも、最初から法人化を検討すべき時代になっています。まずは、不動産投資における法人化のメリットについて解説します。
1-1. 個人との税率の違い
法人化のメリットの1つめは「税率」です。個人は所得税が、法人は法人税が掛かります。
個人の所得税の税率は以下の表の通りです。
課税所得金額 | 税率 | 控除額 |
~195万円以下 | 15% | – |
195万円超~330万円以下 | 20% | 97,500円 |
330万円超~695万円以下 | 30% | 427,500円 |
695万円超~900万円以下 | 33% | 636,000円 |
900万円超~1,800万円以下 | 43% | 1,536,000円 |
1,800万円超 | 50% | 2,796,000円 |
一方、法人税の税率は以下の表の通りです。
課税所得金額 | 税率 |
~400万円以下 | 約22% |
400万円超~800万円以下 | 約25% |
800万円超 | 約38% |
この表を見てわかるとおり、個人と法人の税率が逆転する課税所得は「900万円」です。
個人の所得税では900万円超になると「43%」ですが、法人では800万円超は「約38%」です。つまり、個人の不動産所得だけで課税所得が900万円を超えた場合、次に購入する物件は法人で購入したほうが税金は「約5%」低くなります。
とはいえ、会社員の場合、すでに給与所得がありますので、その分を考慮する必要があります。さまざまな所得控除はありますが、大まかに年収1000万円であれば給与だけで税率が30%に達しているため、そこに不動産所得が上乗せされることを考えると、会社員の不動産投資の場合、「初めての物件でも法人で購入したほうが節税できる」ということになります。
また、個人の所得税の税率は「最高50%」に対し、法人税は「最高約38%」と実に約12%もの差があることも注目です。不動産投資の規模を拡大して売上を伸ばしたい人にとって法人化は非常に有効だといえるでしょう。
1-2. 経費を幅広く計上できる
法人の場合は、個人とは違って損金を通算できます。たとえば、不動産の売却損が出たり、別の事業で経費がたくさんかかり赤字になったとしても、不動産所得の黒字と相殺して全体の課税所得を減らすことができます。
また、生命保険料の控除額も個人の場合は年間最大12万円までです。また生命保険だけではなく、個人年金、介護医療保険も合わせて、それぞれで4万円までという決まりがあります。
しかし法人にはその制限がありません。そのため、過去に全額を経費に計上できる法人の生命保険の商品もありました。しかし、2019年10月に国税庁の通達により、保険料の損金算入ルールが変更されたため、現在はそこまでメリットはありません。それでも個人よりは損金にできる枠は大きいです。
1-3. 損失の繰越控除ができる
不動産投資事業で損失(赤字)が出たとき、個人の場合、繰越ができる期間は3年間である一方、法人の場合は10年間繰越すことができます。
1-4. 所得分散効果がある
家族にその法人の役員になってもらって仕事をしてもらえば、法人で発生した利益を役員報酬として支払うことができます。そうなると一人あたりの課税所得が小さくなり、個人所得税の税率が下げられます。こうするとトータルの税額は低くなる、つまり所得を分散する効果があるのです。
また、法人に内部留保をしたうえで将来、役員に退職金を支払うこともできます。退職金は通常の所得と違って税務上で優遇されているため、税負担を軽くできるのです。
1-5. 短期売買の場合は個人よりも税率が低い
不動産を売却する場合、利益が出ると譲渡税がかかります。個人の場合は、5年以内に売却した場合の売却益は短期譲渡所得となり、税率は所得税30%、住民税9%の合計39%。5年超で売却した場合の売却益は長期譲渡所得となり、税率は所得税15%、住民税5%の合計20%で、他の所得とは別で計算します。
一方、法人の場合は長短の区分がなく一律30%前後の税率です。したがって、5年以内の短期で出口を取るつもりなら法人のほうが有利といえます。
1-6. 融資が受けやすくなる
法人は個人と比べて社会的信用が高いため、融資の審査に通りやすくなります。融資を受けやすくなったり融資の金額が増えたりすれば、その分投資できる不動産も増えて事業規模を拡大しやすくなります。
2. 法人化のデメリットとは?
個人よりもメリットがたくさんある法人化ですが、デメリットもあります。詳しく見ていきましょう。
2-1. 会社設立の費用がかかる
法人化する際には、「資本金」「法定費用」「雑費」がかかります。資本金は厳密には費用ではありませんが、法人設立時には必要です。また、会社設立の報酬である定款認証手数料(株式会社の場合)、登録免許税もかかります。その他の費用も合わせると、合同会社で15万円程度、株式会社で25万円程度が必要になります。
2-2. 赤字でも税金がかかる
法人には、「均等割」という地方税が課されます。所得がなくても法人が存在するだけで課税され、東京23区にあり、資本金1000万円以下・従業員50人以下の法人なら、赤字でも7万円かかります。
2-3. お金を私的に使うことはできない
「法人を設立すれば、いろいろなところで領収書が切れる(=経費にできる)」と思っている人がいるかもしれませんが、それは勘違いです。
個人であれば、家賃収入から経費を引き、納税後の手取りが直接個人の財布に増える形になります。つまり、賃貸事業を拡大して成功すれば、手取り収入が大幅に増えるわけです。
しかし法人の場合、売上から経費を引き、納税後の手取りは剰余金となります。剰余金は会社に蓄えられます。オーナーのお金が増えるわけではなく、もし法人のお金を勝手に使ってしまうと「横領」とみなされます。
また、接待交際費も一部の金額までしか経費として認められず、それを超える費用は損金計上ができません。
2-4. 税務署の調査率が高い
所得税や法人税の申告をすると、黒字の場合ほど税務調査が行われる頻度が高くなります。法人であれば約3~5年に一度、個人であれば7~10年に一度のサイクルで行われるといわれています。
2-5. 給与を払うと社会保険の加入が必要になる
法人化すると、社長1人であっても役員報酬を支払えば社会保険に強制加入となります。そして支払った役員報酬の約30%が社会保険料なるため、負担は大きなものとなります。
3. 法人化する場合のタイミングとは? 最初から法人化がよい?
法人化のタイミングについてはさまざまな意見がありますが、まず検討すべきなのは「1-1. 個人との税率の違い」で解説したように、個人と法人の税率が逆転する「税所得が900万円」が一つの検討タイミングといえるでしょう。この課税所得は不動産事業だけでなく給与所得も含まれますので、サラリーマンであれば年収1500万円前後が目安になります。
ただ、不動産賃貸事業で規模を大きくしていこうと考えているのであれば、最初から法人を設立して物件を買っていくのがおすすめです。法人設立時にはさまざまな初期費用がかかりますが、拡大していくとそれほどの負担にはならなくなります。
なぜ、最初から法人化したほうがいいのか。
その理由は、「個人で不動産を取得して、後で法人に移す場合には費用がかさむから」です。個人から法人への資産移転は、通常の売買と同じように「不動産取得税」「登記費用」がかかります。物件数が増えるとこの費用もかなりかかってくるため、「不動産投資でサラリーマンをリタイヤしたい」「家賃収入で給料分は稼ぎたい」などと思っている人は最初から法人化したほうがいいといえるでしょう。
4. 法人化するための方法
不動産事業を行う法人を設立するときの流れについて解説します。
4-1. 会社設立の基本項目を決める
法人を設立するには、まず法人の所在地や社名、資本金、発起人、取締役などの項目を決めます。
4-2. 印鑑を作成する
次に、銀行印や社印、実印などの会社に関する印を作成します。
4-3. 定款作成し、認証してもらう
最初に決めた会社設立の基本項目をもとに、定款や登記書類を作成しましょう。定款とは、会社の決まりごとを記載したもので「会社の憲法」と呼ばれます。なお株式会社の場合、作成した定款を公証役場に持ち込み、公証人の認証を受ける必要があります。
4-4. 資本金を払う
発起人(発起人が複数いる場合は代表者)の個人口座に出資金を払い込みます。
4-5. 登記書類を準備し、登記申請する
設立登記申請書や印鑑証明、収入印紙など登記申請に必要な書類を準備します。なお、必要書類は株式会社か合同会社かによっても異なります。登記申請は会社の本店所在地を管轄する法務局で行います。申請方法は、窓口・郵送・オンラインの3種類があります。不備がなければ7日~10日程度で登記が完了します。
4-6. 各種届け出をする
登記完了後、法人口座の開設や税務署などへの届け出をします。以上、法人の設立までは2週間程度かかります。
5. 法人化に関するよくあるQ&A
ここでは、法人化でよくある質問とその回答を紹介します。
業種の制限はないため、さまざまな業種を申告し、収入・経費を申告すれば問題ありません。ただし、法人では事務作業、登記の諸経費、税務費用、社会保険費用などさまざまな経費がかかるため、ある程度の規模まで拡大しないとメリットが生かせないといえます。
最もシンプルな方法は、法人設立後に現在の所有物件を法人へ売却譲渡というものです。個人で購入した物件を法人へ売却し、法人に売り上げを発生させることで、個人での開業届や確定申告は不要となります。
そもそも不動産の含み損がある場合、繰り損・債務超過となるので法人設立が不可能といえます。また、個人には可能な長期融資が法人には不可能なので、そうなると、返済期間短縮でキャッシュフローが現状以上のマイナスになります。ただし、赤字の企業では役員報酬を帳簿上払ったうえで同額を会社へ貸付することで、赤字決算だがキャッシュが回る形式を取ります。
まとめ
- 1. 法人化のメリット
・ 個人との税率の違い・ 損失の繰越控除ができる
・ 所得分散効果がある
・ 短期売買の場合は個人よりも税率が低い
・ 融資が受けやすくなる - 2. 法人化のデメリット
・ 会社設立の費用がかかる
・ 赤字でも税金がかかる
・ お金を私的に使うことはできない
・ 税務署の調査率が高い
・ 給与を払うと社会保険の加入が必要になる - 3. 法人設立のタイミングは、個人と法人の税率が逆転する「税所得が900万円」が一つの検討時期といえる。 ただし、規模を大きくしていこうと考えているのであれば、最初から法人を設立して物件を買っていくのがおすすめ
いかがでしたか。「不動産投資で会社員をリタイヤする」など規模拡大が前提となる目標をお持ちの方でしたら、最初から法人化を設立して物件を買うのがおすすめです。なお、法人設立は自分一人でもできますが、さまざまな手続きが必要になりますので司法書士などの専門家に依頼するのも一手です。
こちらの記事でも不動産賃貸業を個人所有か法人化で迷っている方に、はじめての方でも安心の法人化する手順で気を付けるべき点を解説しています。併せてお読みください。
この記事を読んでいる方は、 ・実際に大家としてアパート経営をしていて「不動産賃貸業」と「大家」の違いが気になる ・ただの大家としてではなく「不動産賃貸業」として規模を広げていき安定した状態を作りたい ・不動産賃貸業のことが知[…]