「一物四価(いちぶつよんか)」という言葉をご存知でしょうか? すでに不動産投資をしている方であればご存知の方もいれば、初めて聞いたという方もおられるかも知れません。一物四価とは、土地の4つの評価額のことを言います。
不動産投資では、土地の評価額を正しく理解することも重要です。そのためにも、4つの評価額についても詳細な知識を身に着けておく必要があります。
そこでこの記事では、
- ・一物四価とはどのようなものなのか
- ・一物四価の計算方法と使い方
- ・4つの価格の関係性
などの基礎知識について解説いたします。この記事を最後までお読み頂くことで、4つの評価額を正しく理解して、不動産投資で活かせるようになります。
不動産投資家目線から、一物四価の中で特に大事な「実勢価格の見方」についても解説いたします。
当記事で「一物四価」について正しく理解していただければ、候補の土地や物件を買うかどうかの判断ができるようになるでしょう。
1.一物四価とは
一物四価とは、目的に応じて土地の価格を算出するための評価額のことを言います。
4つの評価額には、
- 実勢価格(市場価格)
- 公示価格
- 相続税評価額(相続税路線価)
- 固定資産税評価額(固定資産税路線価)
があり、それぞれ目的によって使い分けることになります。不動産投資において、目的に応じた正しい価格を算出する上でも、それぞれの違いについて正しく理解しておくことが重要です。
1-1.「実勢価格」
マーケットプライスとも呼ばれることがありますが、実勢価格とは市場価格のことを言います。直近の取引事例など、実際に取引された金額を参考にして算出する方法です。売主、買主における売買時の交渉によっても左右されます。
1-2.「公示価格」
地価公示法に基づいて算出される評価額です。毎年1月1日に公示され、相続税評価額や固定資産税評価額の基準になる指標です。土地の売買は売主、買主によって左右されるため、実勢価格は公示価格通りではなく、公示価格の70~130%程度の増減があると言われます。
1-3.「相続税評価額(相続税路線価)」
相続税を算出する際の基準になる評価額のことで、算出方法には「路線価方式」と「倍率方式」の2つの方法があります。
路線価方式
国税庁が定めた土地の価格を路線価と言い、路線価方式では以下の計算式によって、相続税評価額を算出します。路線価方式は、一般的に公示価格の70~80%が目安と言われています。
- 計算式:正面路線価 × 奥行価格補正率 × 土地の面積
倍率方式
路線価は主要市街地の道路にしか設定されていないことがあり、路線価の存在しない土地については倍率方式によって算出されます。計算式は以下です。
- 計算式:固定資産税評価額 × 税率
1-4.「固定資産税評価額(固定資産税路線価)」
固定資産税を算出する際の評価額です。自治体の担当者が不動産ごとに算出していきますが、一般的な固定資産税評価額の目安は公示価格の70%程度と言われます。
固定資産税評価額の詳細や計算方法については下記の記事で解説しています。
不動産を所有したり、購入したりする際に一度は「固定資産税評価額」という言葉や、その額を目にすることがあると思います。しかし慣れていない方ですと、 ・どういう基準で算出されるのか? ・評価額にはどんな意味があるのか? などが[…]
1-5.一物五価、一物三価と言われる場合も
一物四価の他にも「一物五価」、「一物三価」と言われる場合があります。大きな違いはなく、以下のように、公示価格をさらに2つに分けるか、路線価を分けずに見るか、などの違いがあります。
一物五価は「公示価格」を、
- ・公示地価
- ・基準地価
の2つの評価額に分けて見ていきます。
一物三価は路線価を「相続税評価額(相続税路線価)」「固定資産税評価額(固定資産税路線価)」と分けずに見て行きます。相続の際は、相続税評価額(相続税路線価)を使います。
2.銀行が融資額を決める際に使用する、不動産担保価値の評価方法
一物四価が、土地を評価したり、価値を指標化したりする時の、4つの価格であることを解説しましたが、銀行が融資を決める際にはどのように土地の価値を見ていくのでしょうか? この章では、融資額を決める際の不動産担保価値の評価方法について解説してきたいと思います。
2-1.担保価値の算出方法
不動産担保価値の算出は、一般的に以下の計算式で算出されます。
- 計算式:担保価値 = 不動産の評価額 × 担保掛目(たんぽかけめ)
担保掛目とは不動産の評価額に乗じる割合のことで、具体的な割合は金融機関ごとに違います。一般的な目安としては、担保掛目は「7~8割」と言われています。このことから、金融機関は不動産の評価額から2~3割引いた担保価値を見ていると言えます。
2-2.土地、建物評価額
土地の評価額は一物四価、一物五価などの評価額で算出され、建物の評価額は、建築価格から経年劣化による価値の減少を差し引いて算出されます。経年劣化は、主に耐用年数を用いて金額計算が行われます。
例えば建物の価値が1000万円、木造の物件であれば耐用年数は22年、建築から15年経過している場合には、「1000万円×(15年÷22年)=約681万円」となります。
このように、土地や建物の評価額を算出し、そこに担保掛目を掛けたものを担保価値として、銀行などの金融機関は融資額を決めて行きます。
3.一物四価の中で投資家が売買するときに一番必要な実勢価格
不動産投資をしていく中で、一物四価という4つの評価額で見ていくことを解説してきましたが、不動産投資家が物件の売買を進めて行く中で一番重要なのが「実勢価格」です。
3-1.実勢価格とは
実勢価格とは「マーケットプライスとも呼ばれ、取引事例など、実際に取引された金額を参考にして算出する方法」であることを1章でも解説しましたが、不動産投資家にとって実勢価格が重要なのは、それが「実際に売買される際に参考になる価格」だからです。実勢価格は需要によって売買価格が決まるため、不動産物件の売買において重要な評価額となります。
ただし、土地の実勢価格は判断が難しいことがあります。そもそも土地は、土地ごとに条件が違うため、基準となる数値が存在しません。実際に売買で成立する価格は、売主や買主に意向によって変動するため、相場より離れた金額になることもあります。その為、実勢価格を見て行く際には、平均値として見るのではなく、だいたいこのぐらいの価格帯、と言うような「幅のある価格」として捉えておくことが大切です。
3-2.実勢価格を調べる方法
実勢価格の調べ方には、公示地価、路線価から調べていく2つの方法があります。それぞれの計算式は以下になります。
- ・公示地価 × 110% = 実勢価格
- ・路線価 ÷ 80% × 110% = 実勢価格
公示地価、路線価、それぞれの方法で実勢価格を算出したとして、ここで算出した数値はあくまでも「相場」としての数値です。実際には相場と離れた金額で取引されることもあります。そこで、実際の取引事例と照らし合わせて見ておくことで、精度を高めることが出来ます。
上記のホームページでは、該当の地域を指定することで過去の売買事例を見ることが出来ます。先ほど算出した実勢価格の相場を、これらの事例を照らし合わせてみていくことで、精度高く実勢価格を算出していくことが出来ます。
ただし、事例が少ない地域では過去の参考になる事例が少ないことがあり、比較対象の少なさから精度が低くなってしまう問題が出てきます。このような場合には、
- ・同じ地域の売りだされている物件を調べてみる
- ・無料の価格査定を利用してみる
などの方法を使って、実際の売買事例と比較しながら実勢価格を見て行く事も出来ます。
3-3.公示地価や路線価との差
実勢価格は、公示地価や路線価との差が出てしまうことがあります。土地には元々基準となるような定価がなく、売主、買主との交渉によって売買価格が決まります。しかし実際に決められる売買価格は公示地価に基づくものはないことから、差が出てしまうことがあります。
路線価は公示地価よりも低く設定されていることがあり、例えば地価が上昇している地域では、路線価を使うことで公示価格より実勢価格と離れてしまうことがあります。これは、それぞれの指標が遅れて公表されることに原因があります。公示価格は毎年1月1日にしか更新されません。
路線価はさらに、相続税路線価が7月頃、固定資産税路線価は3年ごとの4月頃にと、さらに遅れて公表されます。土地の実勢価格は常に変動しているのに対して、それぞれが遅れて公表されることによって実勢価格との差を生んでしまうわけです。
3-4.流動的であることを理解して、常に意識しておく。
実勢価格は売主、買主、需要によって決まるため、流動的であると言えます。その為、公示地価や路線価とは差が生まれることになります。だからこそ不動産投資物件の売買時には、実際に売買される金額に近い「実勢価格」を意識しておくことが重要です。
実勢価格を意識しておくことで、需要を加味した「実際に売買する際の価格帯」を推測出来るようになります。そうすることで、例えば不当に物件を高く購入したり、相場より安く物件を売却したりするケースを防ぐことが出来るようになります。不動産投資の収益を守るためにも、一物四価の中でも実勢価格は特に意識しておくようにしましょう。
まとめ
1.一物四価とは、土地の4つの評価額のことです。
2.銀行が融資額を決める際にも、一物四価の指標を用いて担保価値を評価しています。
3.中でも重要なのが「実勢価格」です。実勢価格は売主、買主、需要によって決まるため、流動的ですので価格帯を推測できるようになることも大事です。
1つの土地でも、評価方法は複数あり、様々な視点から不動産価値を評価していくことが出来ます。それぞれの評価額は目的に応じて変わるため、どんな場面でどのように使うのかは正しく理解しておくようにしましょう。
中でも重要なのが「実勢価格」です。不動産物件は需要によっても左右されるため、実際の売買価格を判断する上でとても重要な指標となります。不動産物件の売買時にこれらの指標を正しく活用できるよう、しっかりと理解しておくようにしましょう。