マイホームをお持ちの人、あるいは不動産関連の情報に感度が高い人なら「リースバック」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。ここ数年、話題になっている自宅を用いた資金調達の方法です。
この記事では、
- ・リースバックの仕組み
- ・なぜ、最近リースバックが注目されているのか
- ・リースバックのメリット、デメリット
- ・リバースモーゲージとの違い
について解説します。
一般的にリースバックは自宅所有者が資金調達するときの方法として知られていますが、不動産投資でも「リースバック物件」を狙うという手法もあります。
いずれにせよ、マイホームの問題は多くの方々にとって関心があるテーマですので、本記事で紹介した知識が生かせる機会があるはずです。初めて学ぶ方はもちろん、すでに知っているという方も復習のつもりでご一読いただければと思います。
また、リースバックのトラブルについては、以下の記事で解説していますので、こちらもあわせてお読みください。
不動産におけるリースバックは、「セール・アンド・リースバック」(sale-and-leaseback)とも呼ばれ、売却してもそのまま住み続けることができる仕組みのことを言います。 「リースバックとは?売却後も住み続ける仕組みとメリット・デ[…]
1.「リースバック」とは?仕組みと話題になっている5つの理由
リースバックについての基本的な仕組みなどを把握しておきましょう。
1-1.リースバックとは「自宅を売り、賃貸契約して住み続ける」資金調達法
リースバックという横文字を聞くと、どうしても難しいイメージがつきがちです。
しかし、リースバックは非常にシンプルな仕組みです。 以下のような流れで考えるとわかりやすいでしょう。
- 自宅を第三者(投資家や不動産会社など)に売却する
- 売却先と賃貸借契約を結ぶ
- 自宅を「持ち家」ではなく「賃貸」として住み続ける
例えば、いまあなたが家族3人と住んでいるマイホームが何らかの理由でまとまったお金が必要になったとしましょう。
このとき、もちろん普通に売却して住み替えるという方法もあるわけですが、「子どもに転校させたくない」「職場からのアクセスが悪くなるので住み替えは避けたい」と思うこともあるでしょう。何より大きな決断をして購入した愛着のあるマイホーム。「簡単には手放したくはない」と考えるケースが多いのです。
そこで、第三者に自宅をいったん売却し、売却先と賃貸者契約を結びます。これにより、持ち家ではなくなるものの、賃貸物件として同じ家に住み続けることができます。
リースバックは、「セール・アンド・リースバック」(sale-and-leaseback)とも呼ばれ、本来の意味では不動産などの固定資産に限らず、飛行機や列車などの資本財も対象になっている金融取引です。
1-2.ここ数年でリースバックが大きく広がった理由とは?
リースバック自体は、昔から存在する資金調達の方法です。では、なぜ近年注目を集めているのでしょうか。 その背景には、「収入の減少」による「住宅ローンリスク」が挙げられます。
理由1:消費税・保険料のアップで実質年収がダウン
現在、日本人の平均年収は、国税庁の民間給与実態調査(平成30年)によると「441万円」です。リーマンショック以前の水準以上のレベルまで回復しているものの、当時と比較すると消費税率や保険料が上がっているので、実際に使えるお金が増えたわけではありません。
また、この「441万円」とは平均年収であり、中央値は「約360万円」といわれています。平均値は一部の高所得者が平均を吊り上げている可能性が非常に高いため、中央値のほうがより実態に近いといえるでしょう。
中央値とは、データを小さい順もしくは大きい順に並べ、真ん中にくる値を指します。
例えば、年収300万円・400万円・500万円・600万円・800万円・1,000万円・2,000万円の7人がいたとします。
この場合の平均値を求める場合、計算式は
(300万円+400万円+500万円+600万円+800万円+1,000万円+2,000万円)÷7となり、
「800万円」ということになります。
しかし、中央値の場合、7データを順に並べて真ん中にくるものが中央値なので「600万円」ということになります。平均値と中央値では200万円もの差が離れていることがわかります。
理由2:働き方改革による残業代カット→家計が悪化
実際の使える収入が減っている流れのなかで、政府や企業は働き方改革を推進し、以前よりも残業代が稼げなくなりました。
総務省の労働力調査(平成28年度版)によると、男性正規社員の35~40%が「月間30時間超」の残業をしています。
これが働き方改革により、残業が仮にゼロになったとしたら、どれくらい年収が減ることになるのでしょうか。ある試算結果(※)によると、「50万円ダウン」といわれています。 つまり、年収400万円の人は350万円に、350万円の人は300万円になるということになります。
ちなみに、大企業で働く年収800万円以上の人はもともとの基本給が高いため、残業代カットの影響はあまり大きくありません。
とはいえ、大多数は年収350万〜550万円程度であり、その人たちにとって50万円は非常に大きい金額です。
実際、パーソナル総合研究所・中原淳「長時間労働に関する実態調査」の「残業街に関する従業員の意識」によると、実に60.8%が「基本給では生活に足りない」と回答しています。
つまり、6割の人は残業代が稼げなくなると、生活が苦しくなるということです。
理由3:家計悪化による子育て世代の「教育費負担増」
残業代が減る一方、消費税や保険料は増えています。さらに追い討ちをかけるように、子育て世代にとっては教育費も重く家計にのしかかってきます。
ソニー生命保険株式会社の「子どもの教育資金に関する調査2019」によると、「子どもの教育費の負担を重いと感じる」という設問に対し、「非常にあてはまる」「ややあてはまる」と回答したのは、全体で66.6%です。
就学段階別でいうと、「未就学児」が54.4%、「小学生」が56%、「中高生」が73.4%、「大学生等」が82.2%となっています。 18歳以上の教育費に対しては8割以上が「負担が大きいと感じている」と回答しており、かなり衝撃的な数字だといえるでしょう。
理由4:住宅購入による家計負担増・住宅ローン破綻の増加
残業代の削減、重くのしかかる教育費、消費税、保険料の増加……他にも理由はあると思いますが、現代人がお金に困る要因は数多く存在し、逼迫した生活を余儀なくされている人が大勢います。
そんななか、住宅ローン破綻が社会問題化しています。 NHKのクローズアップ現代では、2019年5月14日「密着!住宅ローン破綻 サラリーマン危機最前線」というテーマで相次ぐ住宅ローン破綻について警鐘を鳴らしました。
実際、少し前の調査になりますが、日本弁護士連合会の「2014年破産事件及び個人再生事件記録調査」(複数回答)によると、調査した破産債務者のうち「住宅購入」が理由である割合は約16%です。
前回の2011年の調査と比較すると、「生活苦・低所得」や「給料の減少」の割合が減少、もしくは高止まりを見せているのに対し、「住宅購入」は、2008年が約10%、2011年が約12%と増加しています。
理由5:任意売却と違い「自宅を手放さずに済むところ」が支持されている
ここ数年、類を見ない低金利が続いているため、「資産にならない家に賃貸で住むよりも買ったほうがオトク」ということで、住宅ローンを組んで家を買う人が増えています。
しかし、なかには返済能力のぎりぎりまで借りてしまう人も少なくなく、返済を始めた当時よりも収入が減った、あるいは出費が増えてしまったなど事情が変われば、住宅ローンの返済が途端に厳しくなってしまいます。
通常、返済が厳しくなった場合は「任意売却」という選択肢もあります。
また、住宅ローン返済が滞ってしまうと、融資した金融機関は一定期間後にローン回収のための競売を実行します。競売が成立すると、愛着のある自宅を手放さなくてはなりません。 ですが、リースバックなら売却という手続きをするものの、自宅に住み続けることができます。
こうした背景からリースバックは注目されているのです。
2. 不動産における「リースバック」のメリット・デメリットとは?
リースバックが注目される社会的背景や仕組みを解説しましたが、当然メリットやデメリットがあります。
2-1.転居不要で代金が一括で手に入る!
費用捻出に役立つリースバック
改めてリースバックの定義をおさらいすると、リースバックとは、自宅(所有している不動産)を専門の不動産会社に売却し、賃貸借契約を結んでリース料(家賃)を支払うことで、引き続き利用しできるという仕組みです。
ポイントは、買取代金は一括で支払われるため、「ローン返済には苦労していないものの、まとまった現金が必要」というときでも利用できることです。
例えば、
- ・子どもの教育費の捻出
- ・病気の治療費の捻出
- ・ランニングコスト(住宅ローンや管理費、修繕積立金、固定資産税・都市計画税など)の軽減
- ・住宅ローン以外の借金返済
- ・事業資金としての活用
- ・年金の不足など老後の生活費を補う
などが挙げられます。
また、普通に売却するのに比べて、以下のようなメリットもあります。
- ・専門の不動産会社が買い取ってくれるので、買い手を見つける手間が省ける。結果、現金化までの期間が短く済むケースが多い
- ・引越しのコスト、手間、精神的負担がかからない
- ・子どもの学区が変わることがない
- ・販売活動をしないので、売却したことが周囲に知られない
- ・将来的に買い戻すことが可能
ほかにも、相続の準備としてリースバックを利用するケースもあります。 「現時点では自分が住んでいるものの、死後には住む人がいないので早めに処分しておきたい」、あるいは「現金をつくっておくことで相続税の支払いに備えておきたい」「相続のときに分割しやすくしたい」といった場合にリースバックは有効です。
2-2. 売却に条件あり・家賃が相場より高めになるのがデメリット
リースバックには、デメリットも存在します。
まず、そもそもリースバックをするためには売却価格が住宅ローンの残債よりも多くないと利用が困難といえます。
例えば、住宅ローンが3000万円残っている状態で売却価格が2000万円だった場合、抵当権の解除ができないため、リースバックができないのです。
また、以下のようなデメリットもあります。
- ・売却価格が周辺相場よりも安価になる傾向がある
- ・毎月のリース料(家賃)が周辺の家賃相場よりも高くなることがある
- ・メリットにあった「買い戻し」は可能だが、その費用は売却価格よりも高くなるケースが多い
- ・契約期間は無期限ではない(一般的には2年程度、しかも更新を前提としない「定期賃貸借契約」が多い)
これらを加味してリースバックの利用を判断します。住宅が絡むリースバックは簡単に利用できるとは限りません。 「お金がないからリースバックで手っ取り早く現金を作って…」などと安易な考えでは必ず困る時が来ますので、必ずデメリットを考慮し、買い戻しの可能性など考えたうえで利用しましょう。
3.所有権が移行しない・年齢制限ありの「リバースモーゲージ」との違いは?
「自宅を利用し、自宅に住みながら資金調達する方法」と聞くと、「リバースモーゲージ」を思い浮かべる人もいるかもしれません。
たしかにリバースモーゲージとは、自宅を担保にして、住み続けながら金融機関や自治体から融資を受けられる制度のため、一見似ているようにも感じます。
しかし、リバースモーゲージの場合、リースバックと違って死亡時に返済することが前提となります。そのため、生存中に融資枠を使い切ってしまう可能性もあるので、生活費として利用する際には十分考慮する必要があります。
そうした理由から、リバースモーゲージの契約条件は「60歳以上」といった年齢制限があることが大半です。
また、リースバックと違い、物件の所有権は移行しません。つまり、固定資産税の納税義務も変わらずオーナーが持つことになります。
他にもリバースモーゲージはリースバックと比べて以下の点が違います。
- ・投資や事業資金には使えない
- ・対象物件は戸建てが基本
- ・家族の同居は配偶者のみ
- ・買い戻しは不可。契約終了後は売却のみ
このようにリバースモーゲージとリースバックは明確な違いがあります。
大きな違いとなるのは、「年齢」という観点でしょう。リースバックの場合、買い戻しが可能なので、近い将来に大きな収入の目途が立っていれば、リースバックを選ぶということもありえるでしょう。
しかもリースバックの買い戻しは、資金の用途が自由です。そのため、リースバックを事業の運転資金として利用し、軌道に乗ったら買い戻すという選択肢もあります。
一方、リバースモーゲージの場合、一定の程度高齢でないと利用できないことが大半です。そのため、年金代わりや老人ホームへの入居費用などに使われることが多いといえます。
4.まとめ
1. リースバックとは、以下のように考えると理解しやすい
- ・自宅を第三者(投資家や不動産会社など)に売却する
- ・売却先と賃貸借契約を結ぶ
- ・自宅を「持ち家」ではなく「賃貸」として住み続ける
2. リースバックは、実質賃金の減少、教育費の高騰、消費税、社会保険料の増加により、住宅ローンの支払いに行き詰まった選択肢として近年注目を集めている。
3. リースバックのメリットは
- ・「買い手を見つける手間が省ける」
- ・「引越しのコスト、手間、精神的負担がかからない」
- ・「子どもの学区が変わることがない」
- ・「売却したことが周囲に知られない」
- ・「将来的に買い戻すことが可能」
などがある。
4. リースバックのデメリットは
- ・「売却価格が周辺相場よりも安価になる傾向がある」
- ・「毎月のリース料が周辺の家賃相場よりも高くなることがある」
- ・「買い戻しは可能だが、その費用は売却価格よりも高くなるケースが多い」
- ・「契約期間は無期限ではない」
などがある。
5. リースバックと一見似ているようにも思われるリバースモーゲージだが、
- ・「投資や事業資金には使えない」
- ・「対象物件は戸建てが基本」
- ・「家族の同居は配偶者のみ」
- ・「買い戻しは不可」
- といったという特徴がある。
いかがでしたか。リースバックが注目される背景には、近年の働き方改革や根本的な問題としてある日本の経済成長の低下が大きく関係しています。デメリットはあるものの、現金が必要になったときの有効な選択肢であることに間違いはないでしょう。
リースバックの契約、事例やトラブルについては以下の記事で詳しく解説しています。ぜひご一読ください。
不動産におけるリースバックは、「セール・アンド・リースバック」(sale-and-leaseback)とも呼ばれ、売却してもそのまま住み続けることができる仕組みのことを言います。 「リースバックとは?売却後も住み続ける仕組みとメリット・デ[…]