不動産投資では、金融機関から融資を受けて物件を購入するのが一般的です。そのときポイントとなるのが「金利」です。金利が高いほど支払い総額は大きくなりますし、低くなれば小さくなります。
そのため、「金利を下げる方法はないだろうか?」あるいは、「そもそも不動産投資のローン金利ってどれくらいなのか?」という疑問を持つ方もいらっしゃるでしょう。またはもう一歩踏み込んで「金利は経費計上できるの?」という人もいるかもしれません。
そこでこの記事では、
- ・金利の種類
- ・金利相場の比較【金融機関別】
- ・金利を安くするためにできること
- ・金利は経費として計上可能?
について不動産投資家でもあり、都市銀行、地方銀行、信用金庫、ノンバンク、日本政策金融公庫で融資を受けた経験のある筆者が徹底解説します。
この記事を読むことで、不動産投資のローンにおける金利についての知識を網羅的に身につけることができます。融資期間を決めるときの判断材料になるはずですし、より正確な収支シミュレーションができるようになるでしょう。
本記事が「家賃収入を得て安定した生活を手に入れたい」という方のお役に立つことができれば幸いです。
不動産投資で融資を受ける場合、金融機関の審査を通過して承認を得る必要があります。とはいえ、初心者の方であれば金融機関の融資担当者と話すのも初めてという人が大半でしょう。「どんなことを質問されるの?」「NGワードはあったりするの?」「どんな条[…]
1. 金利の種類
まず、不動産投資ローンの金利タイプは、次の3つに分かれます。
- ・「変動金利」
- ・「固定金利選択型」
- ・「全期間固定金利」
それぞれにメリット・デメリットがあるので、それを踏まえたうえで最適な金利タイプを選びましょう。また金融機関によって扱う種類も異なりますので注意が必要です。
これから、それぞれの金利について詳しく解説していきます。
1-1. 変動金利
変動金利とは、文字通り「最初に設定した金利が変動する」タイプの金利を指します。
「変動する」ということは当然、上昇する可能性もあるわけです。正確にいうと、債権市場の影響で金利が変動するため、ローン返済額が上がる可能性があるということです。
ただし、後述する固定金利に比べると、割安な金利設定になっていることが多く、低金利が続くのであれば、支払総額が少なくなるというメリットがあります。
なお、変動金利は、「短期プライムレート」と「長期プライムレート」があります。短期プライムレートは金融機関が決めた「優良企業へ1年未満の短期貸出をする際の金利」です。
一方、長期プライムレートは「金融機関が優良企業へ1年以上の長期貸出をする際の金利」です。金融機関によっては短期プライムレート連動・長期プライムレート連動を選択することが可能です。
1-2. 固定金利選択型
固定金利選択型は、「一定期間経ったあとに、固定金利か変動金利か再度選べる」という金利タイプ。一定期間とは、2年、3年、5年、10年と利用する金融機関によって異なります。
金融政策の金利の情勢を見て方針を変えられるため、「全期間、変動にするのはリスクが高い」と思う人には向いているといえます。
1-3. 固定金利(全期間固定金利)
固定金利とは、借入から完済まで固定の金利を支払い続ける金利タイプです。市況や金融政策の影響を受けず金利は一定なので、収支計画を立てやすいのがメリットです。
ただ変動金利よりも金利が高く、取り扱っている金融機関は少ないのがデメリットといえます。
金利タイプ | 変動金利 | 固定金利選択型 | 固定金利 (全期間固定金利) |
特徴 | ・債権市場の影響で定期的に借入金利が変動する ・「短期プライムレート」と「長期プライムレート」がある |
・一定期間経ったあとに、固定金利か変動金利か再度選べる(一定期間とは、2年、3年、5年、10年と利用する金融機関によって異なる) | ・借入から完済まで固定の金利を支払い続ける |
メリット | ・固定金利に比べると、割安な金利設定になっていることが多い ・低金利が続くのであれば、支払総額が少なくなる |
・固定期間終了後は、金融政策の金利の情勢を見て方針を変えられる | ・市況や金融政策の影響を受けず金利は一定なので、収支計画を立てやすい |
デメリット | ・債権市場の影響で金利が変動するため、ローン返済額が上がる可能性がある | ・固定期間終了後の金融政策の金利の情勢により、ローン返済額が上がる可能性がある | ・変動金利よりも金利が高く、取り扱っている金融機関は少ない |
2. 金利相場の比較【金融機関別】
不動産投資用ローンの金利の相場は、金融機関によって異なります。
ただ、総じて住宅ローン金利よりも高く、大体2%以上で、4%以上の金融機関も珍しくありません。また、不動産投資ローンの金利は変動金利が中心で、一部の金融機関を除いては固定金利が選べない場合が多いのも特徴の一つです。
不動産投資ローンを利用できる金融機関は大きく6つに分類されます。
- ・日本政策金融公庫
- ・ノンバンク
- ・ネット銀行
- ・信用金庫
- ・地方銀行(地銀)
- ・都市銀行(メガバンク)
条件は、金融機関や購入する物件、個人の属性によって大きく左右されます。それぞれ見ていきましょう。
2-1. 政府系金融機関
政府系金融機関の代表的なものに、日本政策金融公庫があります。100%政府出資の政策金融機関です。日本政策金融公庫の場合、融資期間が「10年 or 15年」と短く融資の上限額も少ないものの、審査の基準は緩く、金利は共同担保を提供できる場合で1%前後、共同担保なしの場合で2%中盤と比較的低い傾向があります。そのほか、政府系金融機関には商工中金もあります。日本政策金融公庫と商工中金を比べると、日本政策金融公庫のほうが借りやすいと言われています。
※担保物件の評価額や個人の属性によっては、さらに金利が優遇されるケースもあります。
※女性、20代もしくは55歳以上の男性なら借入期間を最長15年間とすることができ、金利優遇も受けられます。
2-2. ノンバンク
ノンバンクとは、銀行以外の金融機関のこと。不動産投資では、三井住友L&F、セゾンファンデックスなどがよく使われます。
ノンバンクの特徴は、「融資基準が緩い代わりに金利が高い」ことが挙げられます。年収が低いなどの属性があまり良くない人、あるいは再建築不可や既存不適格といった特殊な事情を抱える物件で融資を受けたい人はノンバンクが選択肢に入ります。金利相場は3%台から18%台程度と大きく幅があります。
ちなみにノンバンクの特徴は「預金の受け入れを行っていない」ことです。また、銀行が「銀行法」に基づいて経営されているのに対し、ノンバンクは「貸金業法」に基づいて経営されています。「ノンバンク」という言葉からも推察できるとおり、銀行ではなく貸金業者ということです。
2-3. 信用金庫・信用組合
信用金庫・信用組合は、株式会社である銀行とは違い、地域の繁栄を図る相互扶助を目的とした非営利の金融機関です。主な取引先は中小企業や個人です。不動産ローンでいうと、基本的に地銀より狭いエリアが対象で、原則として「物件と居住地が営業エリア内にある」「もしくは信金の営業エリアと地縁がある」ことが条件になります。一般的に属性や物件の評価が低くても融資が出る可能性がある一方、金利は高めで金利相場は2%〜5%台となっています。
2-4. 地方銀行(地銀)
地方銀行は、各地方や都道府県内を営業基盤としている銀行のこと。不動産投資で代表的なのは、横浜銀行、千葉銀行、静岡銀行などです。かぼちゃの馬車問題を皮切りに取り沙汰されたスルガ銀行も地銀の一つです。
基本的には信用金庫と同様、自行が取り扱いに強い地域にある物件に融資をし、その対象は地元の中小企業や個人がメインです。
地方銀行の金利相場はかなり差があるため、「何%程度」ということはできません。その銀行に直接問い合わせてみることをお勧めします。
2-5. 都市銀行(メガバンク)
都市銀行は、三菱UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行(りそな銀行を加えることもある)です。金利は1%前後と低く、20年以上の融資も可能です。さらに融資エリアが全国であるのもメリットです。
ただ、年収や勤務先などの属性だけでなく物件に関しての審査基準が非常に厳しいです。大規模で運営しているベテラン大家になると、借入ができる可能性が上がるというイメージです。
3. 金利を安くするためにできること
不動産投資ローンの金利を低く借りるにはどうすればいいのでしょうか。ここでは3つのポイントを紹介します。
3-1. 金融機関のアレンジ力がある不動産会社の物件を購入する
金融機関をゼロベースから開拓するのは不可能ではないですが、かなり根気が求められることであり、普通のビジネスパーソンには現実的ではありません。
そこで大半の方は、不動産会社の提携先の金融機関から融資を受けることが一般的です。そのとき、提携数が多い会社や融資づけの実績が豊富な不動産会社であれば、最も有利な条件で融資をしてくれる金融機関のアレンジ(紹介)が期待できます。
よって、融資の金利はもちろん、融資期間、融資額などを確認したい場合は、先に不動産会社に提携先の金融機関と各種条件を予めヒアリングしたうえで物件を探すと、余計な手間がかからずスムーズな契約が進む可能性が高まります。
3-2. できるだけ属性を上げておく
金融機関は何を基準に融資の可否を決めるのか。不動産投資ローンの場合、「借主の属性」「物件の担保評価」の2つがベースとなります。
この借主の属性とは、年収、勤続年数、勤務先、自己資金などの資産背景などで構成されます。また、借入残高(不動産投資ローン、住宅ローン、車のローン、カードローンなど)、過去の返済実績や滞納履歴、金融機関のブラックリストなどを確認していきます。
融資審査前にこれらの情報を整理し、できるだけ良い状況にしておくと、金融機関からの評価も高まり、金利条件も良くなる可能性があります。
3-3. 返済実績があると金利交渉ができる
不動産投資をすでに始めている方で、何年もローン返済の実績があるという方は、金利を低くできる可能性があります。
たとえば、現在融資を受けている金融機関に対して「別の金融機関で低い金利で借り換えができそうなので、手続きを教えていただけませんか?」と乗り換えをほのめかす相談をしてみましょう。
すると、現在の金融機関の担当者も「この人はしっかり返済してくれているし、今後の付き合いも考えるなら、少し金利を下げても自行で借り続けてもらいたい」という判断になり、金利が引き下げられる可能性があります。
ただ、これはあくまで現状の金利が「それなりに高いこと」が前提です。「それなり」とは、他行と比べて低いということであり、もし現状の金利が相当低いのであれば交渉の余地はあまりないといえます。
3-4. 金利交渉時のポイント
金利交渉をうまく進めるためには以下のポイントがあります。
資料の準備
金利交渉する際には、「現状の金利と希望の金利で計算したキャッシュフロー表」と「確定申告書」を用意しましょう。この2つの資料があると、相手に「しっかりしたオーナーだな」という好印象を与えられます。
また、これらの資料は郵送せずに手渡しするようにしましょう。郵送だと他の資料を混じってしまい、きちんと見てもらえない可能性もありますし、直接渡してもらったほうが有難みがあるものです。面倒だと思うかもしれませんが、それで金利交渉ができればトータルで数百万円安くなる可能性もあるので、やれるべきことは実施すべきです。
交渉時には何を話せばいいか?
いくら金利を下げてもらいたくても、単刀直入にお願いしても断られてしまいます。それは恋愛でもビジネスでも同様です。金利交渉するときに伝えるべきポイントは以下の点です。
- ・近年の金利状況について(外部環境)。いかに金利が下がっているかを説明。
- ・他行でも低い金利で借り換えをできそうだということをほのめかす
- ・とはいえ、自分としては御行に感謝しているので、これからも末長く付き合いたいと思っている
- ・できれば金利の引き下げを検討いただきたい
概ねこの流れを意識して担当者と交渉してみましょう。前項にも書いたとおり、遅延なく返済している実績があれば、そしてそれが妥当性のあるものであれば、金利を低くしてもらえる可能性は十分あります。
4. 金利は経費として計上可能?
不動産投資をして賃貸経営をする場合、必要経費を計上することが可能ですが、ローンの金利は経費として計上することが可能でしょうか?早速見ていきましょう。
4-1. 金利分は経費になる
ローン返済における利息分は必要経費です。ただし、必要経費となるのは利息のみで、元本は経費にはならないので注意しましょう。
つまり、
- ・借入金→必要経費にならず、貸借対照表上の負債として計上
- ・金利(支払利息)→必要経費になり、損益計算書上の必要経費として計上
ということです。
4-2. デッドクロスに注意
少し話が逸れますが、経費計上のとき忘れてはいけないのが「デッドクロス 」についてです。
デッドクロスとは、「減価償却費がローンの元金返済額を上回る状態」です。
減価償却費とは、建物や建物設備を購入時に一括して経費計上するのではなく、利用できる期間に振り分けて経費計上するもの。現金の支出を伴わない帳簿上の費用なので、減価償却費を計上した分だけ経費も増え、利益を圧縮して節税につながります。
一方、毎月のローン返済は現金の支出が伴うものの、経費として計上できるのは、ローン返済額のうち、利息相当部分のみ。この利息相当部分も、返済が進むにつれて額が減っていきます。
年月が経つにつれて、減価償却費と利息の経費計上できる金額が減ってしまうという状況が起こります。これはつまり、減価償却費と利息という節税に有効な2つの武器を失うということ。場合によっては、黒字が発生しすぎて納税するキャッシュがない(黒字倒産)という状況に追い込まれます。これが「デッドクロス」です。
賃貸経営がデッドクロスの状態に陥ると、「帳簿上の利益が黒字にもかかわらず、手元資金が枯渇」してしまいます。そして、黒字に対する課税される所得税によって賃貸経営の収支がマイナスに転じてしまうのです。
デッドクロスについては以下の記事で詳しく解説しているので、ぜひご一読ください。不動産投資を行ううえでデッドクロスの知識は絶対に持っておくべきです。
不動産投資をそれなりに勉強している方なら「デッドクロス」という言葉を聞いたことがあると思います。しかし、概念がわかりづらいことから「なんとなく」理解している人も多いのではないでしょうか。もしくは「一度も聞いたことがない」という方もいるかもし[…]
不動産投資におけるリスクの一つである「デッドクロス」は、不動産経営で、「帳簿上は黒字であっても資金繰りに困ったり、経営破綻に陥ってしまったりする危険性がある」ため、回避する方法や対策を事前に知っておくことがとても重要です。 デッドクロスと[…]
5. まとめ
- 1. 不動産投資ローンの金利は、「変動金利」「固定金利選択型」「固定金利(全期間固定金利)」の3種類がある
- 2 不動産投資ローンを組む際には、「政府系金融機関」「ノンバンク」「信用金庫・信用組合」「地方銀行(地銀)」「都市銀行(メガバンク)」の6種類の金融機関の中から選ぶ。金利やその他条件は金融機関によって大きく異なる
- 3. 金利を安くするためにできることは、「金融機関のアレンジ力がある不動産会社の物件を購入する」「できるだけ属性を上げておく」「返済実績をつくっておく」などがある
- 4. ローン返済における利息分は必要経費になる。ただし、必要経費となるのは利息のみで、元本は経費にはならない
いかがでしたか。金利について学ぶことで、場合によっては数百万円の差が生じます。特に不動産投資では多額のローンを長期間借りることも多いので、その影響力は非常に大きいです。この記事を機会にローンに対する意識を高めていただければ幸いです。
アパートローンの基礎知識や注意点については、不動産を扱うプロが以下の記事でお伝えします。
アパートローンは不動産投資をする上で、避けて通れない重要な知識の1つです。特に不動産投資を始めるにあたっては「ローンを組む」という壁に当たる人も少なくないはずです。 「アパートローン」について知りたいのは不動産投資の規模を拡大したい人、も[…]