抵当権という言葉自体はそれなりにメジャーなので見聞きしたことがある人は多いでしょう。なかには、賃貸借契約や売買契約などで「抵当権付き」という言葉を見かけたことがある人もいるかもしれません。しかし、具体的にどういう権利でどういった注意事項があるのか、わかっているようでわかっていない人もかなりいらっしゃるはずです。
この記事では、
- ・抵当権とは
- ・根抵当権との違い
- ・抵当権設定の手続き
- ・抵当権設定登記にかかる費用
について解説します。
抵当権の知識を深めることで、物件選択の幅が広がり、そこに付随するリスクを避けることができます。本記事は知識ゼロの方のためにわかりやすく解説しますので、ぜひこの機会に身につけていただければと思います。
1.抵当権とは
1-1.なぜ抵当権が必要なのか
抵当権とは、「抵当権者(債権者)が、債務者又は第三者が占有を移転しないで債務の担保に供した不動産について、ほかの債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利(民法第369条第1項)」のことです。
内容を噛み砕いて説明しましょう。
抵当権とは、わかりやすく言うと、「金融機関がローンの融資を行う際に、万が一、ローンの返済ができなくなったときのために、不動産を担保に取る権利」です。
金融機関は融資を実行する際、債務者(借りる人)を厳正に審査しています。しかし、未来のことは誰にもわかりません。勤め先が倒産した、突然リストラになった、交通事故に遭って働ける状態ではなくなったなどの理由から、どんな債務者でも返済が困難になる可能性があります。
そこで登場するのが抵当権です。もしローンの支払いが困難になった場合、金融機関は抵当権を実行します。それにより、物件が差し押さえられて競売にかけられ、落札金額がローン返済に充てられます。つまり、抵当権が設定されている物件は借金の担保のような状態ということです。
1-2.競売とは
抵当権が設定されている不動産の場合、ローンの支払いが長期間滞ると競売にかけられてしまいます。競売とは、「裁判所主導で行われる不動産の競りのようなもの」です。定価という概念は存在せず、落札者によって価格が決まります。
落札価格は、全額ローン返済に充てられます。そのため、所有者がお金を手にすることはできません。家を差し押さえられ、退去させられ、資産も残らないため、結果的に所有者が自己破産に追い込まれることも少なくないのです。
なお、競売には厳密にいうと「強制競売」「担保権の実行」の2種類があります。
強制売買とは、債権者が抵当権などの担保権を設定していない場合に行うものです。公正証書や判決などの債務名義を得たうえで、債務者の所有不動産を競売にかけます。
担保権の実行とは、前述したように、一般的な競売を指します。つまり、抵当権に基づいて、債務者の住宅を強制的に売却することです。
1-3.抵当権の順位
抵当権は、1つの目的物(不動産など)に対して、複数の設定が可能です。複数の場合、早く登記した者から優先順位が付けられます。
抵当権の順位は、民法第373条で「同一の不動産について数個の抵当権が設定されたときは、その抵当権の順位は、登記の前後による。」と定められています。
つまり、ある不動産に複数の抵当権が設定されている場合、抵当権が実行されたときの優先的に弁済を受ける順序は登記の順番で決まり、同順位の抵当権者間では、その債権額の割合で弁済を受ける、ということです。
といっても、少々わかりづらいと思うので、下記で事例を用いながら説明を補足しましょう。
1-4.弁済額の決め方
抵当権が実行されて競売にかけられたとき、弁済額はどのように分配されるのでしょうか。
例えば、抵当権付きの不動産の返済が困難になり、競売にかけられて5000万円で売れたとします。抵当権者は以下の3人とします。
- ・A(一番抵当権者、債権額3000万円)
- ・B(二番抵当権者、債権額3000万円)
- ・C(三番抵当権者、債権額3000万円)
この場合、一番抵当権者のAが最優先で弁済され、債権額の3000万円を受け取ることができます。二番抵当権者のBは、残りの2000万円を受け取れます。しかし、Cは1円も受け取ることができないのです。
ただ、こうなってしまうと、抵当権の順位が低い抵当権者は、全額が弁済されない可能性が出てきます。
そこで、Bは何とか一番抵当権者になるため、Aとの話し合い(金銭のやりとりが発生することが多いですが)、 抵当権の順位を変更することができます。
また、債務者がAへの3000万円の債務を完済した場合、 当然ですが、Aの一番抵当権は自動的に消滅し、二番抵当権者だったBが一番抵当権へと繰り上がります。
なお、同順位の抵当権者間の場合(この例だと、仮にBとCが同順位だった場合)、Aに弁済して残った2000万円は、BとCに1000万円ずつ分配されることになります。
1-5.根抵当権との違い
抵当権と似た言葉に「根抵当権」があります。抵当権と一文字しか違わないので、意味も近いと思いがちですが、実際は全く似て非なるものです、
抵当権は、特定の債権を担保する権利です。抵当権と特定の債権(不動産など)は1対1のセットになっています。抵当権Aには不動産Aが、抵当権Bには不動産Bが……というイメージです。
これに対し根抵当権は、あらかじめ貸し出す金額の上限を決めておき、その範囲内において何度も貸し借りができるようにするための権利です。
例えば、1億円の根抵当権が設定されている場合、1億円以内であれば何度も貸し借りができます。ちなみに、この1億円のように根抵当権が担保する範囲の債権の合計額を「極度額」と呼びます。
これはつまり、抵当権は借りていたお金を返せば自動的に消滅する一方、根抵当権はお金を返しても消滅しないということです。
根抵当権は抵当権の一種で、ローンの返済が困難になった際、不動産を競売にかけ返済に充てられるということは、抵当権と何ら変わるところはありません。
企業が事業資金などの融資を受ける際に、所有する不動産などに設定するケースが多いです。
事業においては「いつ資金が必要になるか」ということを予測できません。 いつ資金が必要になってもいいように、前もって根抵当権を設定しておくことで極度額の範囲内でいつでも資金を簡単に借り入れることができます。
1-6.抵当権と根抵当権における登記内容の違い
抵当権もしくは根抵当権を設定する場合、それぞれの権利について登記すべき事項が法律で定められているのですが、その事項は異なります。
- 抵当権で求められる登記事項
- ・債権額
- ・債権の内容
- ・債権者・債務者
- ・利息
- ・損害金等
- 根抵当権で求められる登記事項
- ・極度額
- ・債権の範囲
- ・債務者・債権者等
2.抵当権登記の設定
抵当権の設定登記は、金融機関もしくは不動産会社が指定の司法書士が行うことが多いのですが、ここではどのようなことをしているのか簡単にお伝えしましょう。
なお、登記手続きは大変複雑で、万が一にもミスをすることが許されないため、登記手続き、特に抵当権設定登記に関しては司法書士に依頼すべきです。そもそも多くの金融機関では自分で抵当権を設定することを認めてくれません。
2-1.抵当権設定登記が必要なパターン
抵当権設定登記の申請が必要になるのは、主に以下の4パターンです。
- ・住宅ローンを組む場合
- ・不動産投資をする場合
- ・事業資金を得るため不動産を担保に融資を受ける場合
- ・住宅ローンの借り換えをする場合
2-2.抵当権設定登記の手続きで必要なもの
抵当権設定登記の手続きに際して必要なものは、以下のとおりです。
- ・抵当権設定契約書(テンプレートはインターネット検索するとすぐ見つかります)
- ・不動産の権利証(不動産購入と同時に抵当権を設定する場合は不要)
- ・不動産所有者の印鑑証明書
- ・不動産所有者の実印
2-3.抵当権設定登記の流れ
続いて、抵当権設定登記の流れを紹介しましょう。
金銭消費貸借契約の締結
金銭消費貸借契約とは、将来の弁済を約束したうえで、金銭を消費するために借り入れる契約のことです。一般的に、銀行や消費者金融等の金融機関等が貸主となって締結されます。
抵当権設定契約の締結
契約を前提に、債権者と不動産所有者の間で抵当権設定契約を締結します。
なお、住宅ローンを金融機関から借り入れる場合、金銭消費貸借契約と抵当権設定契約をまとめて一つの契約書に盛り込むことが多く、こうした契約は「金銭消費貸借抵当権設定契約」と呼ばれます。
必要書類が用意できているか確認
「2-2. 抵当権設定登記の手続きで必要なもの」で紹介した書類がそろっているかを確認します。
登記申請
不動産の所在地を管轄する法務局で、登記の申請を行います。 窓口申請・郵送申請、もしくは司法書士専用ですがネット申請の方法もあります。
3.抵当権設定登記にかかる費用
抵当権を設定する際には、次のような費用がかかります。
- ・登録免許税
- ・雑費
- ・司法書士への手数料
以下、詳しく見ていきましょう。
3-1.登録免許税
抵当権設定登記をする際に発生する税金で、基本的に借入額の0.4%です。
正確にいうと、以下の3ステップで計算されます。
(1). 債権額のうち、1000未満の数字を切り捨てる
例えば、債権額が4260万8490円の場合、「4260万8000円」となります。この金額を「課税標準額」と呼びます。
(2). 課税標準額に0.4%の税率をかける
今回の場合、課税標準額は「4260万8000円」ですから、0.4をかけると「17万432円」となります。
(3). (2)で算出した値の、100未満の数字を切り捨てる
17万円となります。今回の場合、この金額が登録免許税となります。
なお、建物に関しては一定の条件を満たせば、0.1%になります。
3-2.司法書士への手数料
司法書士に依頼すると「司法書士報酬」という手数料が5万円から20万円程度かかります。
司法書士報酬を安くしたいということであれば、複数の司法書士から相見積もりを取るのがいいでしょう。インターネットで「司法書士 抵当権 ○○(エリア)」などと検索して、よさそうな司法書士がいれば見積もりをとります。場合によっては、数万円、十数万円の差がでることもあります。
3-3.雑費
細かい出費もありますので、紹介しましょう。
収入印紙
金銭消費貸借契約書には、金額に応じた収入印紙を添付する必要があります。
- 1万円未満……非課税
- 1万円以上10万円以下……200円
- 10万円超50万円以下……400円
- 50万円超100万円以下……1000円
- 100万円超500万円以下……2000円
- 500万円超1000万円以下……1万円
- 1000万円超5000万円以下……2万円
- 5000万円超1億円以下……6万円
- 1億円超5億円以下……10万円
- 5億円超10億円以下……20万円
- 10億円超50億円以下……40万円
- 50億円超……60万円
- 契約金額の記載のないもの……200円
参考 国税庁ホームページ「No.7140 印紙税額の一覧表(その1)第1号文書から第4号文書まで」
印鑑証明書の発行手数料
目安として1通450円で発行されます。何通必要かは銀行に確認しましょう。
登記事項証明書の発行手数料
登記手続きが完了後、登記事項証明書を取得することになりますが、1通600円の発行手数料がかかります。
まとめ
1. 抵当権とは、「金融機関ローンの融資を行う際に、万が一、ローンの返済ができなくなったときのために、不動産を担保に取る権利」を指す。金融機関は抵当権を実行した場合、物件が差し押さえられて競売にかけられ、落札金額はローン返済に充てられる
2. ある不動産に複数の抵当権が設定されている場合、抵当権が実行されたときの優先的に弁済を受ける順序は登記の順番で決まり、同順位の抵当権者間では、その債権額の割合で弁済を受ける
3. 根抵当権は、あらかじめ貸し出す金額の上限を決めておき、その範囲内において何度も貸し借りができるようにするための権利。抵当権の一種で、ローンの返済が困難になった際、不動産を競売にかけ返済に充てられるということは、抵当権と何ら変わらない
4. 抵当権を設定する際には、登録免許税、雑費(収入印紙、印鑑証明書の発行手数料、登記事項証明書の発行手数料)、司法書士への手数料がかかる
5. 司法書士報酬を安くしたいということであれば、複数の司法書士から相見積もりを取る
6. 登記手続きは大変複雑で、万が一にもミスをすることが許されないため、登記手続き、特に抵当権設定登記に関しては司法書士に依頼すべき
いかがでしたか。抵当権は収益不動産を買うときだけでなく住宅ローンを受ける際にも求められる知識です。