不動産投資で融資を受ける場合、金融機関の審査を通過して承認を得る必要があります。とはいえ、初心者の方であれば金融機関の融資担当者と話すのも初めてという人が大半でしょう。「どんなことを質問されるの?」「NGワードはあったりするの?」「どんな条件があると、融資が通りやすくなるの?」などさまざまな疑問が出るはずです。
人と話すことが得意な人でも、「面接のような形式は緊張する」「何か対策がほしい」と考える人もいるでしょう。
そこでこの記事では、
- ・不動産投資ローンの審査基準は?
- ・不動産投資ローンの審査の流れ
- ・審査に必要な書類とは?
- ・不動産投資ローンの審査に関するQ&A
について不動産投資家でもあり、都市銀行、地方銀行、信用金庫、ノンバンク、日本政策金融公庫で融資を受けた経験のある筆者が徹底解説します。
この記事を読むことで、ローン審査時に何を用意すべきなのか、どういう回答を持って臨むべきかなどがわかるようになり、自信を持って審査を迎えられるようになります。特に初めての審査は誰もが緊張するものです。焦ってミスをしないよう、この記事でしっかり予備知識を身につけていただければと思います。
本記事が「家賃収入を得て安定した生活を手に入れたい」という方のお役に立つことができれば幸いです。
1.不動産投資ローンの審査基準は?
不動産投資で融資を受ける場合、住宅ローンと基準が異なります。この章では、不動産投資ローンと住宅ローンの違いや審査基準について解説していきます。
1-1.住宅ローンとの違い
同じ「不動産」のローンという意味では「住宅ローン」もありますが、不動産投資ローンとはまったくの別物です。一般住宅はあくまでも「居住するため」の建物ですが、不動産投資用アパートは「利益を得るため」の建物ということになり、審査基準も異なります。
不動産投資ローンのほうが審査は厳しい
住宅ローンは「住宅ローン減税」などからもわかるとおり、国の住宅施策の一環であるため、「できるだけ多くの人に借りてもらう」という背景があります。なので、審査は比較的緩く、年収が低い人、貯金が少ない人、非正規労働に就いている人でも住宅ローンを組むことは可能です。
一方、不動産投資ローンでは、賃貸経営がうまくいかず、空室だらけだとローン返済が滞ることになり、貸主である金融機関も困ります。そのため、審査基準は住宅ローンよりも厳しくなるのです。
住宅ローンで賃貸に出すことは基本NG
住宅ローンでは「借主が住むことが条件」です。最近では、金利が低い住宅ローンで不動産を購入し、金融機関に内緒で賃貸に出してしまっているケースが報告されていますが、この場合「期限の利益の損失」に該当し、金融機関から残債の一括返済を求められることもあります。
実際、フラット35を受けて賃貸に出していたオーナーが、金融機関から一括返済を求められた結果、自己破産に陥ったという報道も出ています。不動産会社からは「他の人もやっているので大丈夫ですよ」と勧められていたようですが、オーナーも「知らなかった」では済まされませんので注意しましょう。
なお、住宅ローンを受けている場合でも、「子どもが生まれて部屋が手狭になった」「転勤になり、今の家に住めなくなった」といった事情がある場合、融資をしてくれている金融機関に相談に行って承認を得られれば、賃貸物件として貸し出せるケースもあります。
1-2.不動産投資ローンでは何が審査されるのか?
不動産投資ローンの審査では、
- ・借主の属性
- ・物件の評価
という2つの観点で行います。
借主の属性
借主の審査の際に必要な情報として、
- ・年収
- ・年齢
- ・勤務先
- ・勤続年数
- ・家族構成
- ・借金・ローンの有無と金額
- ・自己資金の有無と額
- ・信用情報(クレジットカードでの滞納歴がないか等)
などを確認します。
これは個人属性といって、金融機関がその人の社会的な信用度や返済能力をはかる基準となります。ローンを組んだ後に返済が滞ることがないかをチェックするためのもので、年収が上下しないか、勤務先の経営状態が安定しているか、その会社に長く勤めているかなどが見られます。勤務先では、一部上場企業、公的機関、医療法人、学校法人などが高評価につながります。
物件の評価
これは積算法と収益還元法に基づいて判断が行われます。簡単にいえば、物件の「担保価値」と「収益力」を評価されるということです。
積算法については以下の記事をお読みください。
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収益還元については以下の記事をお読みください。
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1-3.金融機関によって審査基準は違う
不動産投資ローンは、金融機関が独自の基準で審査をしています。
例えば、都市銀行(メガバンク)は、高額な融資を低金利で行う代わりに、審査基準は他の金融機関よりも厳しくなります。
一方、政府系の日本政策金融公庫、ノンバンク、ネット銀行、信用金庫は基準が比較的緩く、借主の属性や物件の担保価値が低くても融資を受けられる可能性があります。
ローンの金利については以下の記事でも解説しておりますので、こちらもご参考ください。
不動産投資では、金融機関から融資を受けて物件を購入するのが一般的です。そのときポイントとなるのが「金利」です。金利が高いほど支払い総額は大きくなりますし、低くなれば小さくなります。 そのため、「金利を下げる方法はないだろうか?」あるいは、[…]
2.不動産投資で使えるローンの審査の流れ
どのような流れで申請から承認まで進むのかを見ていきましょう。
2-1.ローン申請の準備
金融機関の融資担当者へ連絡し、面談のアポイントを取ります。 不動産会社の提携先の金融機関であれば、不動産会社の担当者が調整してくれます。合わせて不動産投資ローンの申請で必要な書類についても確認します。必要書類については「3. 審査に必要な書類とは?」で詳しく解説します。
2-2.面談を行い、審査を受ける
アポイントが取れたら必要書類を持参し、融資担当者と面談します。このとき、融資を受ける物件、事業計画などを伝えます。
次は融資審査です。金融機関内では何段階もの手続きを踏むため、それなりの時間がかかります。金融機関によって変動はありますが、稟議書の作成に2日、各段階で1日、本部への書類送付時間も考慮すると、最短でも10日はかかるといえるでしょう。
2-3.融資決定の通知、金銭消費賃借契約をする
審査に通過した場合は、申請先の金融機関より融資決定の連絡が来ます。そして金融機関と金銭消費貸借契約(金消契約、ローン契約)を結びます。 決済前に行うのが一般的です。
3.審査に必要な書類とは?
不動産投資ローンの審査で、必要なものは主に以下のとおりです。
- ・物件概要書……物件名、所在地、土地建物の面積などが書かれた書類。
- ・レントロール……賃貸借契約の状態の一覧表
- ・売買契約書……売主、買主の間における不動産売買の約束事をまとめた書類
- ・重要事項説明書……宅地建物取引士が物件の重要事項を説明する際に発行する書類
- ・登記簿謄本……不動産の登記内容を記録した書類
- ・公図……土地の登記所にある地図のことで、物件の周辺区画を記したもの
- ・建築確認済証…… 建物が法令を遵守していることを証明する書類
- ・身分証明書
- ・印鑑登録証明書
- ・住民票
- ・所得を証明するもの(前年分の源泉徴収票や確定申告書、自営業の場合は確定申告書)
- ・勤務先の概要、職歴書
- ・直近3年分の納税証明書(各税務署にて発行可能)
- ・資格の証明書……不動産関連の国家資格・公的資格(宅地建物取引士、不動産鑑定士、マンション管理士など)を証明する書類
- ・賃貸借契約書・支払通帳、既存ローンの返済予定表……住宅ローンなどの借り入れ状況などを記載
- ・法人の場合、決算書、法人登記証明書、事業計画書など
書類に不備が見つかると審査がスムーズに進まなくなりますので、注意が必要です。
なお、上記の書類をすべて借主が用意するわけではありません。多くの場合、不動産会社の提携先の金融機関から融資を受けることになると思うので、その不動産会社の担当者から指示されたものを忘れずに持参するようにしましょう。
4.不動産投資ローンの審査に関するQ&A
ここまで不動産投資ローンの審査に関する基礎知識を紹介してきましたが、ここではよくある質問とその回答を不動産投資家でもあり、10冊以上の不動産投資に関する書籍に携わった経験のある著者がいくつか紹介します。
4-1.どんな質問をされることが多いのでしょうか?
不動産投資ローンの審査でよく聞かれる質問は以下のとおりです。
- ■あなたはどんな人物か?
- 学歴、職歴、現在の勤務先、保有資産状況などの情報、そしてあなたがどんな人物なのかを話し方や振る舞いを見て判断します。向こうは毎日のように面談をしているので、嘘をついても必ずバレてしまいます。実直に回答することがポイントです。
- ■なぜこの銀行を選んだのか?
- 数ある金融機関のなかで、なぜ自分のところの銀行を選んだのかという質問です。妥当な回答としては、「自宅(もしくは勤務先、物件)に近いから」「給与の振込先口座がある」「住宅ローンを借り入れている」などです。事前に回答を決めておきましょう。
- ■なぜ不動産投資を始めようとするのか?
- これは次項で詳しく解説します。
- ■なぜその物件を選んだのか?
- これはあなたの事業者としての力量と意識を問う質問といえます。「なんとなく儲かりそうだから」「業者が勧めてくれたから」という回答では、事業者としての信用は得られません。
- 周辺の競合物件との相場比較、希望条件で融資を受けられた場合の収支シミュレーション、考えている出口戦略など、その物件を購入したあとに成功するまでのビジョン、プランを説明できると、「この人はしっかり事業として考えているのだな」と思われ、信用を勝ち取ることができます。
4-2.「これは言ってはいけない」というNGはありますか?
面談のとき、「不動産投資を志した理由」を聞かれることがよくあります。このとき注意点があります。
不動産投資には「投資」という言葉が含まれますが、投資目的、つまり「お金を稼ぐために不動産を買う」という説明は、たとえ表面的にはそれが明らかでも言ってはいけません。
というのも、当記事ではわかりやすく伝えるために、不動産投資ローンという言い方をしていますが、不動産投資ローンという商品はなく、正確には「賃貸不動産事業のためのローン」であり、あくまで「賃貸不動産事業に対する設備資金」です。金融機関によっては「アパートローン」というアパート購入のための融資もありますが、金融機関によっては「事業向けの融資」となります。たとえ「家賃収入を得て悠々自適な生活を送りたい」という本音があっても融資担当者の前では口にしてはいけません。「投資」という言葉を避け、「事業」と言うよう心がけましょう。
特に信用金庫や地方銀行などは「地域に貢献する事業」ということに重きを置いています。ですから、「自分が不動産オーナーになり、少しでも快適な住環境を地域の人たちに提供したい」などと言うのが好まれます。
4-3.どんな格好で面談に臨めばいいのでしょうか?
男性の場合、ノーネクタイがNGというわけではありませんが、基本的なビジネスマナーとしてネクタイを着用してスーツで出向くのが無難です。また、「金遣いが荒そうな人」だと思われないためにも、派手な時計やきらびやかな装飾品は避けましょう。
4-4.どうすれば融資担当者から好印象を得られますか?
前項の続きになりますが、できるだけ清潔感のある身なりを心がけましょう。
また、熱意のある説明をすることも必要ですが、コミュニケーションの基本として「相手の話を聞くこと」も重要です。最近の融資事情、融資の姿勢、支店の状況など世間話のネタはいくらでもあるはずですので、まずは相手に関心を持ち、話を聞いて距離を近づけることも大切です。
また、審査に必要な資料について前述しましたが、これらの資料は事前にコピーし、ファイリングして持参するのがベストです。こうすることで相手がコピーする手間を省くことができ、「ここまでしていただいているのですか!」とこちらのやる気を行動で示すことができます。
5.まとめ
1.住宅ローンよりも不動産投資ローンのほうが審査は厳しい
2.住宅ローンを受けている場合でも、特殊な事情がある場合、融資をしてくれている金融機関に相談に行って承認を得られれば、賃貸に回せるケースもある。だが、そうした例外を除き、住宅ローンを受けている物件を賃貸に出してはいけない。
3.不動産投資ローンの審査では、「借主の属性」と「物件の評価」で融資の可否を判断される
4.不動産投資ローンの審査の流れは「ローン申請の準備」「面談を行い、審査を受ける」「融資決定の通知、金銭消費賃借契約をする」で進む
いかがでしたか。初めての人にとって金融機関からの審査は非常にハードルが高そうに思えるかもしれません。
しかし審査の流れと相手の求めているポイントを理解すれば、受験や就職のときのような難しさはないはずです。また、不動産会社の提携先の金融機関であれば、事前に審査が通るかどうかがほぼわかっているので、よほどおかしなことを言わない限り、通過する確率は高いといえます。リラックスしつつ、とはいえ事業を行う一経営者としての自信とやる気をアピールすることが大切です。
なお、以下の記事では不動産投資ローンを法人で組むメリットについて解説しておりますので、こちらもご参考ください。
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