建物の耐用年数は、不動産投資家にとって必要な知識であり、理解しておくべき数字の一つです。建物の耐用年数と言えば「減価償却の計算に使用する数字」というイメージを持つ人が多いかもしれませんが、それ以外にも不動産投資の様々なシチュエーションで関わってくる数字の1つです。
そこでこの記事では、耐用年数に対する基礎知識をお伝えしていきます。
- ・そもそも耐用年数とはどうやって決められているのか
- ・減価償却時の計算方法
- ・銀行の融資で必要な耐用年数
- ・建て替え、立て直しの基準として
- ・耐用年数をオーバーしたら融資はどうなるのか
この記事をお読み頂くことで、耐用年数とはそもそもどんな時に必要で、どのようにして決められているのか、などの耐用年数に関する基礎知識が身に付き、自分自身で必要な計算が出来るようになります。
私は10棟の不動産物件を所有する現役不動産投資家であり、不動産投資を始める人たちのアドバイスやサポートを行うコンサルタントとしても活動しています。不動産投資のプロの視点から、耐用年数をどのように見て、融資の際にはどう考えていくのかなども合わせて解説していきたいと思います。
1.耐用年数とは
耐用年数とは、減価償却費の計算の基礎となる数字です。しかし一口に耐用年数と言っても、計算方法は1つではありません。どのようにして決められているか、どのような時に必要なのかまずは正しく知っておいてください。
1-1.耐用年数とは?
耐用年数とは「減価償却資産が利用に耐える年数」のことを言います。
- 長期に渡って反復使用する、経済的に価値がある物の使用、所有価値の減価を計算する基礎となります。
減価償却を行う際には「どのぐらいの期間で減価償却を終えるのか」という期間を定める必要がありますが、これが耐用年数となります。では、その耐用年数とはそもそもどのように決められているのかを次にご説明します。
1-2.耐用年数はどうやって決めているか
アパートやマンションなどの不動産物件は、構造によって耐用年数が異なります。例えば建物の構造の違いによる、一般的な耐用年数は以下のようになっています。
建築構造 | 耐用年数 |
鉄筋コンクリート造 | 47年 |
重量鉄骨造 | 34年 |
木造 | 22年 |
軽量鉄骨造 | 19-27年 |
主な法定耐用年数は上記の通りで、耐用年数の算定については、建物の
- 防水
- 床
- 外装
- 窓
- 構造体
の5要素からなるとされ、上記の建物ごとの耐用年数もこれらの要素から算出されたものとなっています。
1-3.耐用年数が必要な場合
耐用年数が必要になるのは、減価償却を適用する場合となりますが、大きく分けて以下の3つのケースがあります。
- 「減価償却の計算」の時(法定耐用年数)
- 「融資期間の計算」の時(経済的耐用年数)
- 「実際に使える年数」の目安(物理的耐用年数)
以下は国税庁HPによる、建物ごとの耐用年数の目安となります。
■建物
構造・用途 | 細目 | 耐用年数 |
木造・合成樹脂造のもの | 事務所用のもの | 24年 |
店舗用・住宅用のもの | 22年 | |
飲食店用のもの | 20年 | |
旅館用・ホテル用・病院用・車庫用のもの | 17年 | |
公衆浴場用のもの | 12年 | |
工場用・倉庫用のもの(一般用) | 15年 | |
木骨モルタル造のもの | 事務所用のもの | 22年 |
店舗用・住宅用のもの | 20年 | |
飲食店用のもの | 19年 | |
旅館用・ホテル用・病院用・車庫用のもの | 15年 | |
公衆浴場用のもの | 11年 | |
工場用・倉庫用のもの(一般用) | 14年 | |
鉄骨鉄筋コンクリート造・ 鉄筋コンクリート造のもの |
事務所用のもの | 50年 |
住宅用のもの | 47年 | |
飲食店用のもの:延面積のうちに占める木造内装部分の面積が30%を超えるもの | 34年 | |
飲食店用のもの:その他のもの | 41年 | |
旅館用・ホテル用のもの:延面積のうちに占める木造内装部分の面積が30%を超えるもの | 31年 | |
旅館用・ホテル用のもの:その他のもの | 39年 | |
店舗用・病院用のもの | 39年 | |
車庫用のもの | 38年 | |
公衆浴場用のもの | 31年 | |
工場用・倉庫用のもの(一般用) | 38年 | |
れんが造・石造・ブロック造のもの | 事務所用のもの | 41年 |
店舗用・住宅用・飲食店用のもの | 38年 | |
旅館用・ホテル用・病院用のもの | 36年 | |
車庫用のもの | 34年 | |
公衆浴場用のもの | 30年 | |
工場用・倉庫用のもの(一般用) | 34年 | |
金属造のもの | 事務所用のもの:骨格材の肉厚が4mmを超えるもの | 38年 |
事務所用のもの:骨格材の肉厚が3mmを超え、4mm以下のもの | 30年 | |
事務所用のもの:骨格材の肉厚が3mm以下のもの | 22年 | |
店舗用・住宅用の骨格材の肉厚が4mmを超えるもの | 34年 | |
店舗用・住宅用の骨格材の肉厚が、3mmを超え、4mm以下のもの | 27年 | |
店舗用・住宅用の骨格材の肉厚が、3mm以下のもの | 19年 | |
飲食店用・車庫用の骨格材の肉厚が、4mmを超えるもの | 31年 | |
飲食店用・車庫用の骨格材の肉厚が、3mmを超え、4mm以下のもの | 25年 | |
飲食店用・車庫用の骨格材の肉厚が、3mm以下のもの | 19年 | |
旅館用・ホテル用・病院用の骨格材の肉厚が、4mmを超えるもの | 29年 | |
旅館用・ホテル用・病院用の骨格材の肉厚が、3mmを超え、4mm以下のもの | 24年 | |
旅館用・ホテル用・病院用の骨格材の肉厚が、3mm以下のもの | 17年 | |
公衆浴場用の骨格材の肉厚が、4mmを超えるもの | 27年 | |
公衆浴場用の骨格材の肉厚が、3mmを超え、4mm以下のもの | 19年 | |
公衆浴場用の骨格材の肉厚が、3mm以下のもの | 15年 | |
工場用・倉庫用の(一般用)骨格材の肉厚が、4mmを超えるもの | 31年 | |
工場用・倉庫用の(一般用)骨格材の肉厚が、3mmを超え、4mm以下のもの | 24年 | |
工場用・倉庫用の(一般用)骨格材の肉厚が、3mm以下のもの | 17年 |
■建物附属設備
構造・用途 | 細目-耐用年数 |
アーケード・日よけ設備 | 主として金属製のもの-15年 その他のもの-8年 |
店舗簡易装備 | 3年 |
電気設備(照明設備を含む) | 蓄電池電源設備-6年 その他のもの-15年 |
給排水・衛生設備、ガス設備 | 15年 |
建物には法定耐用年数の他に、償却率も定められています。償却率を踏まえて、減価償却の計算を行います。
構造・用途 | 法定耐用年数 | 償却率(定額法) |
木骨モルタルの住宅 | 20年 | 0.05 |
金属造3mm以下の住宅 | 19年 | 0.053 |
木造・合成樹脂造の住宅 | 22年 | 0.046 |
金属造3〜4mm以下の住宅 | 27年 | 0.038 |
金属造4mm超の住宅 | 34年 | 0.03 |
鉄骨鉄筋コンクリート造の住宅 | 47年 | 0.022 |
給排水・ガス・照明設備 | 15年 | 0.067 |
個別冷・暖房機器 | 6年 | 0.167 |
詳しくは次の章から説明します。
2.減価償却計算の時必要な耐用年数
2-1.そもそも減価償却とは?
減価償却とは、減価償却資産を取得した際の計算方式です。取得費用は取得年度だけでなく、一定年数をかけて経費として計上します。減価償却の対象は建物のみとなっていて、土地は対象外となります。
2-2.計算方法
減価償却の計算を行うために必要なのは、
- 取得費
- 耐用年数
- 償却率
です。
取得費
取得費については、土地は減価償却の対象外となるため、土地と建物の取得費を分けて算出する必要があります。耐用年数は1章で法定耐用年数を記載していますが、築年数によっても変わります。
耐用年数
築年数を越えた場合には「法定耐用年数×0.2」として計算します。
耐用年数を越えていない場合「(法定耐用年数-築年数)+築年数×0.2(端数切り捨て)」として計算します。
償却率
償却率は耐用年数を元にして、国税庁HPから調べることができます。不動産の取得日が、平成19年4月1日以降か、平成19年3月31日以前かによって償却率が違う点において注意が必要です。
計算例
- (例)
- 不動産の購入金額:4,000万円
- 不動産の固定資産税評価額:3,000万円
- 建物の固定資産税評価額:1,000万円
- 土地の固定資産税評価額:2,000万円
- 工事費の割合:建物80%・建物設備20%
- 構造:木造
- 築年数:10年
建物の取得費用=4,000万×(1,000万÷3,000万)=1,333万
建物本体の取得費=1,333万×80%(=0.8)=1066.4万
建物設備の取得費用=1,333万×20%(=0.2)=266.6万
建物本体の耐用年数=(22年-10年) +10×0.2=14年
建物設備の耐用年数は(15年-10年)+10×0.2=3年
■取得日:平成19年4月1日以降
建物本体の償却率:0.112
建物設備の償却率:0.334
建物本体の減価償却費=
建物本体の取得費用(1,333万)×0.112=149.296万円
建物設備の減価償却費=
建物設備の取得費用(266.6万)×0.334=89.044万円
総額=238.34万円
3.融資期間の計算の際に使う耐用年数
建物の耐用年数は、銀行の融資に大きく関わってきます。耐用年数がどのぐらいかによって融資期間は変わるからです。ここではなぜ融資に必要なのか、銀行はどんなところを見ているかを解説していきたいと思います。
3-1.なぜ融資に必要なのか
銀行は融資する際の判断材料の1つとして耐用年数を見ています。銀行は貸したお金を何年で返してもらえるかを、融資期間の判断材料にします。耐用年数が短いことは、その建物を使用できる期間が短い、と言うことを意味し、従って融資期間も短くなってしまいます。融資期間が短くなるとことで毎月の返済額は大きくなり、不動産投資におけるキャッシュフローにも大きく影響します。
3-2.銀行が融資期間を決める際に用いる建物の耐用年数
銀行の融資では、法定耐用年数よりも厳しい「経済的残存耐用年数」を用いて融資期間を決めることもあります。
- 経済的残存耐用年数とは、物件の物理的、経済的、機能的、それぞれの状態を多角的に見ながら、建物を使用できる寿命を示すものです。
法定耐用年数よりも厳しい基準となるため、法定耐用年数より短い耐用年数が算出されます。そのため、融資期間を決める際の指標に、経済的残存耐用年数を用いる場合は融資期間が短くなることがほとんどとなります。
3-3.注意! 中古物件の計算はまた違う
中古物件の場合は計算が変わってくることも知っておくことが大切です。2章でも記載しましたが、中古物件の減価償却を計算する際の耐用年数の計算は
- ・築年数を越えた場合「法定耐用年数×0.2」として計算
- ・耐用年数を越えていない場合「(法定耐用年数-築年数)+築年数×0.2(端数切り捨て)」
となりますが、これはあくまでも減価償却を計算するための残存年数を出す計算であり、銀行が融資の目安にする残存耐用年数ではないことをしっておくようにしましょう。
4.実際に使える年数の目安にするための耐用年数
耐用年数とは、減価償却の計算や銀行融資の指標として用いる数値であることをお話ししてきましたが、実際にその物件に住む際の「安全面」を示す指標ともなります。
特に中古物件であれば、どのぐらい持つのか、どのぐらい住めるのかは気になるところですが、耐用年数はその指標となります。耐用年数を把握しておくことで、
- ・リフォーム
- ・建て替え
- ・建て直し
などの目安を知ることができます。これらを見ておくことで、適切なタイミングでリフォームや建て替え、立て直しを考えることができ、中古物件の価値を高めることが出来るほか、安全に住むための重要な指標となります。
5.耐用年数をオーバーしている物件で融資を受けた場合にどうなるのか?
耐用年数を越えて融資を受けられるのか?オーバーして融資を受けるとどうなのかついても、メリット・デメリットを交えて解説いたします。
5-1.そもそも耐用年数オーバーで融資は受けられるか
基本的には、金融機関は法定耐用年数の融資しかしてくれない、と考えるのが一般的です。しかしながら、耐用年数の考え方は金融機関ごとに違います。金融機関によっては、耐用年数をオーバーしても融資してくれるところはあります。
5-2.耐用年数オーバーの融資を受けるメリット・デメリット
メリットは、キャッシュフローが増えることです。融資期間が短い場合でも、耐用年数オーバーの長い融資期間で融資を受けることで、キャッシュフローが出るようになります。
もちろん、デメリットもあります。融資期間が長くなると金利負担が増えます。融資額が大きいほど負担が増え、数百万、数千万円の差を生むことになります。金利の低い金融機関で融資を受けることが重要ですが、耐用年数オーバーで融資をしてくれる銀行は金利が高いことがあります。耐用年数オーバーで融資を受けると残責が減らず、債務超過のリスクが高まることになります。キャッシュフローが出るからと安易にとびつくと、後々苦労することになります。
5-3.法定耐用年数を超過して融資を出してくれる金融機関
一般的には、多くの金融機関は法定耐用年数内の融資しかしてくれません。理由は、金融機関は「担保割れ」を嫌うからです。担保評価額がローン残高より少なくなっている状態のことを担保割れと言いますが、価値の無い物に融資している状態になってしまうため、法定耐用年数を超過した場合には、金融機関は融資を嫌がる、と考えるのが一般的です。
とは言え、金融機関によって耐用年数の考え方そのものが違います。多少のオーバーなら融資をしてくれることもあるので、実際には各金融機関に問い合わせてみるなどが必要です。他にも地縁を活かし信金、信組もしくは公庫あたりをターゲットにあたってみたり、積み立て預金などのツテを利用してあたってみる方法もあります。
まとめ
1.耐用年数と一口にいっても、計算方法や必要になる場面は様々ある。
2.法定耐用年数の目安を見ながら、減価償却に必要な計算を行う。
3.耐用年数は銀行融資とも関係してくる。中古物件は計算が違う事も注意。
4.リフォームや建て替え、安全に住む際にも耐用年数は使える。
5.銀行によって考え方は様々。耐用年数オーバーで融資してくれるところもある。
耐用年数は減価償却の計算に必要となる指標ですが、計算方法や、必要なシチュエーションが様々であることをお分かり頂けたと思います。特に不動産投資をされている方であれば、融資に関係してきたり、リフォームや建て替えに関係してきたりもしますので、正しい知識を身に付けておくことが大切です。
また、不動産投資で安定した収入を得るための指標として耐用年数を気にする人もいるかもしれませんが「満室であること」などを基準として考えるなら、耐用年数に拘らずに購入するという選択肢もあります。耐用年数に拘るのであれば、耐用年数が長く、木造でも築浅の物を狙うのもおすすめです。参考にしてみてください。