最近、賃貸契約の中で「短期解約違約金」という言葉聞かれる様になりました。
もしかしたら耳慣れない言葉かも知れませんが、これは契約条項に関係するので、貸す側、借りる側の双方がしっかりと知っておく必要があります。特に、不動産契約は「知らなかった」で済まされない場合もあります。
また、費用に関係するため、契約の際には短期解約違約金に関する知識を身に着けておく必要があります。
そこで、この記事では短期契約違約金について、
- ・貸す側、借りる側についての基本知識
- ・貸す側としての契約設定
- ・借りる側としても役立つ情報
- ・トラブル事例とそこから学べること
をお伝えいたします。
この記事を読むことによって、短期解約違約金についての基礎知識に加え、借りる側、貸す側の双方にとっての違約金に関する義務について、また契約書の中での位置づけなどを理解することで、事前にトラブルを回避できるようになるでしょう。
1.短期解約違約金とは
まずは短期解約違約金についての概要を説明します。
1-1.そもそも短期解約違約金とは何か
賃貸経営において、入居者の獲得には費用がかかります。例えば原状回復に発生している費用や、ハウスクリーニングの費用などが挙げられます。また、最近では敷金や礼金をゼロとした物件が多くなっており、この場合も大家側が費用を負担しています。
もし、敷金や礼金をゼロで募集した、あるいは入居者の価格交渉で値下げに応じて客付けをしても、借手が非常に短い期間で退去をした場合、大家側は掛けた費用の分だけ損をしてしまいます。
そこで設定される様になったのが「短期解約違約金」です。短期解約違約金は賃貸不動産で入居者が短い期間で退去する場合の違約金で、契約書上の特約となります。
1-2.短期解約違約金の相場はいくらか
短期解約違約金の相場は、大体家賃の1か月分程度となっています。
これは、一般的な違約金が家賃の1か月分としていることや、新たな入居者を呼び込む期間としては1か月が妥当とされていることからです。
ただし、家賃1か月の金額設定が絶対という訳では無く、非常に短期間で退去する場合には、家賃2か月分などの違約金を設定する場合もあります。
1-3.短期解約違約金が設定されている意味
1-1でも解説しましたが、短期解約違約金は、大家側の損失を減らすことを目的としています。
最近では、例えば一定期間家賃を無料にするフリーレントなど、大家が客付けのために費用を負担するものが多く、仮に無料期間だけで借主に退去されると、貸主としては家賃が入らないだけでなく、その後の清掃費用など更に負担が大きくなってしまいます。
そこで設定するのが、短期解約違約金です。大家側としては家賃の減収を補填できるメリットがあります。
1-4.短期解約違約金と法律
違約金については、「消費者契約法」で定められています。この法律は、消費者が一方的に不利益を被らないためのもので、不動産の場合は一方が極端に不利な立場に立たない様にする効力があります。
一般的には、契約書の中に違約金に関する特約が記載されていて、その金額が通念上で妥当な額であること、その上で署名と捺印があれば契約は有効になり、契約違反があった場合は違約金の支払い義務が生じます。
しかし、有効か無効かは個々のケースによって判断が分かれているのが現状です。とはいえ、その委託金が適法かどうかは、過去の判例からある程度の判断をすることができます 先に挙げましたが短期解約違約金は、この消費者契約法を加味した上で「1か月程度」が妥当とされています。
ただし、1か月以上の違約金が設定されていても、妥当とみなされることもあります。例えば、フリーレント期間を長くつけている場合、家賃1か月では貸主側が損失をするリスクも多いため、契約条件に応じて家賃の3か月分程度でも妥当と判断されることもあります。
1-5.短期解約違約金はどこで確認すれば良いのか
賃貸契約において重要と言えるのが、契約書の内容と重要事項説明になります。
違約金は多くの場合、契約書の中に記載されています。ただし、短期解約違約金は貸主と借主が同意の上で取り決められる条項のため、特約として扱われます。
また、短期解約に関しては、重要事項説明の時に宅建士から説明を受けることになっています。しかし、稀にではありますが、短期解約違約に関しては「前提の物」と認識されていて、説明を受けないままで契約書を作成されるケースもあります。ですから、特にフリーレントなどで借りる場合には、重要事項説明の際には突っ込んで質問し、確認を取ることも必要です。
いずれにせよ、費用に関しては「言った、言わない」が問題になることもあるので、借手の方も十分に調べて臨むことが重要となります。
「重要事項説明」については以下の記事で詳しく解説しています。こちらもあわせてお読みください。
不動産の売買、あるいは賃貸借契約をしたことがある人なら「重要事項説明書」という用語を聞いたことがあると思います。その名の通り、「その物件の重要事項について記載されている書類」なのですが、知っているようで実はよくわかっていないという人も意外に[…]
2.賃貸契約の解約について
賃貸契約の解約は、借手都合によるものと貸手都合によるものの2つのケースがあります。
2-1.借りる側の都合で賃貸物件を解約する場合
賃貸借契約を見ると、契約期間は2年となっている物件が多いのですが、実質的に借手の意思によって、2年を待たずして解約することが出来ます。ですから、借手側からの解約は自由と言うことが出来ます。
ただし、「解約したい」という旨を大家側に伝えて即日部屋を出ることは出来ません。通常は退去の日の1か月前の事前通知をするのが普通となっています。
尚、契約が「定期借家契約」の場合は更新が無く、途中での解約もできないため、契約の期間が終わるまで家賃を支払う必要も出る場合があります。注意が必要なので、契約の内容をしっかりと確認しましょう。
2-2.貸す側の都合で賃貸物件を解約する場合
次に貸手からの解約についてです。
賃貸契約は借手からの解約は実質的に自由ですが、貸手からの解約は簡単には出来ません。
これは「借地借家法」という特別法に起因し、借手を厚く保護する法律となっています。借地借家法の特徴は、他の民法と仮に干渉した場合には、借地借家法が優先されることになっています。 そのため、貸手からの契約解除には厳しい条件が付きます。条件としては、解約前の6か月前までに解約を通知することと、解約のための正当な理由が必要となります。
尚、解約のための正当な理由としては、家賃の滞納や物件の老朽化などがあります。とはいえ、家賃を滞納している場合も、3か月の滞納期間があり、老朽化している場合も「単に古くなった」からではなく、「倒壊の危険性が増した」などの深刻な条件が必要となります。
2-3.短期解約違約金が設定されていることが多い物件とは
短期解約違約金が設定されている物件は、敷金や礼金をゼロに設定した物件や、フリーレントを設けた物件であることが多いです。全体の特徴としては、契約時の初期段階の費用を貸手側が負担する物件となります。
3.貸す側と借りる側から見る短期解約違約金
ここで物件を貸す側と、借りる側から見た短期解約違約金について見てみましょう。
3-1.【貸す側】短期解約違約金が大家に必要な理由
不動産を貸す側としては家賃収入を考えることに加えて、物件のメンテナンスに注力し空室の期間を少なくすることが非常に重要です。
そのため、入居者に短期間で退去されると、原状回復費用などの負担が大きくなり、実質利回りに大きな悪影響を及ぼします。また、空室期間が発生すれば、年間を通しての家賃収入は大きく減ります。その他にも、仲介会社に支払う報酬などの出費もあります。
このような費用を敷金・礼金無し、もしくは借り手からの条件交渉で割引した状態で負担するのは経営面でマイナスです。
しかし、短期解約違約金の支払いがあれば、原状回復の費用や入居者募集の出費に補填することが出来ます。その様に、短期解約違約金は大家の収益を守る上で、重要な位置を占めるのです。
3-2.【借りる側】違約金を支払わないとどうなる?
違約金を支払うかどうかを考える前に、賃貸契約の「重み」について考えましょう。
不動産契約は借地借家法を絡めた、非常に重要な契約となります。また、一旦契約書に捺印をすれば貸手側は立場的に不利な位置に立つことになります。 なので、貸手は重要事項の説明をして、借手の確認を取ります。その上で借手側は契約に同意した証拠として捺印をします。つまり、契約書はそれだけ重い意味を持っていることになります。
そういった過程を経ているのに、契約に書かれている違約金を支払わないとどの様になるのでしょうか。
基本的に、契約書に捺印をした後で「支払わない」とすることは困難です。もし裁判になった場合、勝つことは非常に難しいでしょう。 それでも、「支払わない」と主張した場合は保証会社が動くことになります。保証会社は、督促の電話や訪問督促、更には裁判所経由での強制執行など、非常に厳しい手段で打って出て来ます。
ですので、トラブルにならないためには契約書などの事前確認が非常に重要になってくるのです。
4.短期解約違約金の具体的トラブル例
ここで、短期解約違約金をめぐるトラブルについて見てみましょう。
4-1.【ケース1】引っ越し直前に違約金の存在を知った
ケース1は賃貸マンションの契約の際に、「初期費用をなるべく抑えたい」という借手側の希望と、仲介業者の働きかけにより、敷金がゼロになった物件での出来事です。
その物件に引っ越す直前に、借手側は敷金ゼロの物件の申込書を不動産業者に送ったところ、契約書とともに特約事項の入った重要事項説明書が送られて来ました。その時に初めて違約金の存在を知ることになりました。
なぜこの様になったかというと、仲介業者が「敷金ゼロの物件は違約金が入るのが慣習となっているので説明はしなかった」からでした。
借り手は短期解約をするつもりはありませんでしたが、転勤の可能性もまったくないとは言えず、違約金なしで契約したいとは考えていましたが、引っ越しの準備もすでに行っていたので、その費用を考えると契約をせざるを得ませんでした。
結局、数カ月後に職場で転勤の辞令が降り、引っ越しせざるを得なくなりました。当然ながら、短期解約違約金を支払うことになり、費用面で大きな負担が発生することになりました。
この事例から学べることは何でしょうか?
当記事の2-3でもお伝えしましたように、
- 「敷金礼金がゼロ、あるいはフリーレントの物件は、短期解約違約金を設定していることが少なくない」
ということをよく覚えておくことです。
このような知識を借手側が身に着けておけば、そうした物件に申し込む前の段階で、短期解約違約金に関して仲介業者に突っ込んで確認できます。そうすれば、「聞いていなかった」といったトラブルは回避できるでしょう。
4-2.【ケース2】連帯保証人になったら違約金の請求が来た
友人が借りた物件の連帯保証人になりました。敷金と礼金がゼロの物件でしたが、友人はたったの4か月で退去してしまいました。そこで、連帯保証人のところに管理会社から違約金の請求が送られてきました。
契約書に違約金の記載があったにも関わらず、友人が支払わなかったため、連帯保証人の自分に請求が来た・・・という訳です。
ではこのような場合、保証人は違約金も支払う義務が生じるのでしょうか?
基本的に契約者が支払わない限り、連帯保証人に支払い義務があるという点で弁護士の見解は一致しています。よって、連帯保証人になる場合は、違約金の特約があるかなどをしっかり確認し、自分が代わりに支払う可能性があることをしっかりと認識しておくことが重要です。
まとめ
1.賃貸契約には、短期解約違約金を設定する場合があります。ただし、あくまでも貸手と借手の双方合意の上での契約事項となり、特約扱いとります。
2.契約にもよりますが、短期解約違約金は家賃の1~3ヶ月程度の金額が設定されることが多く、目的は短期間に退去された場合の大家の損失補填となります。なので、フリーレント・敷金や礼金をゼロに設定している物件で設定されることが多くなります。
3.きちんと説明を受け、契約をしたのであれば、入居者は短期解約金を支払う必要があります。
短期解約違約金は、不動産投資においてはリスクに対する保険的な意味もあります。契約の流れや注意点をよく知っておきましょう。